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2016年12月25日(日)

検証 日ロ首脳会談

安倍外交「新しいアプローチ」の正体

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 安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領との首脳会談では、注目された領土問題はまったく進展がありませんでした。しかし、安倍首相は、両国が「北方四島」(国後(くなしり)、択捉(えとろふ)、歯舞(はぼまい)、色丹(しこたん))での「共同経済活動」を行うことで合意したことを、「新しいアプローチ」と称してアピールしています。その実態は歴代自民党政権の外交交渉からさえ大きく後退したもので、領土問題の解決をいよいよ遠のかせるばかりか、日本の主権に大きな障害をもたらしかねないものです。(藤田健)


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領土問題を最初から棚上げ

 安倍首相は20日、都内の講演で「現実を直視したアプローチをとらなければ(日ロ間の)平和条約締結というゴールにたどり着くことは決してできない」と主張し、「共同経済活動」を「平和条約の締結に向けた重要な一歩を踏み出すもの」と自賛しました。

 首相の主張は、領土問題について「互いにそれぞれの正義を何度主張しあっても問題を解決することはできない」(16日の共同記者会見)として、最初から領土問題を棚上げするものです。

 ロシア側が、自国の正当性をいくら主張しようが、反論さえしないという卑屈さです。実際、プーチン大統領は来日前から「ロシアに領土問題は存在しない」と主張。首脳会談後の共同記者会見では「1945年の(第2次世界)戦争の後にソ連はサハリンを取り戻しただけでなく南クリル諸島(南千島)も手に入れることができた」と、歴史を都合よく解釈して“正当性”があると堂々と公言しました。

 それでも安倍首相は、反論はおろか、歴史的経過からも日本に領土の正当性があることすら主張しなかったのです。

 日本共産党の志位和夫委員長は、こうした首脳会談をめぐる安倍首相の態度について「大変だらしのない外交」(18日)と批判しました。「『新しいアプローチ』の名で、領土問題を脇に置く。そして、まずは経済協力だと。そうすれば、いずれは領土問題の解決に道が開けますというようなもの」「相手が『領土問題は存在しない』と言っているもとで、領土問題を脇においては、一歩も前進しません」ときびしく指摘しました。

「正義」を主張してきたのか

 安倍首相は“正義を何度主張しても問題は解決しない”といいますが、これまでの自民党政権は領土問題で「正義」を語ってきたでしょうか。

 日ロ間で平和的に画定した領土にかんするとりきめは、1875年の「樺太(からふと)・千島交換条約」で、樺太全島をロシア領とする代わりに、千島列島全体を日本領としたことにあります。

 ところが、旧ソ連のスターリンが、第2次世界大戦の際に、「領土不拡大」という連合国の戦後処理の大原則を踏みにじって、千島列島の引き渡しを要求。米英がこれに応じて「ヤルタ秘密協定」に書き込まれました。その後、旧ソ連は北海道の一部である歯舞、色丹まで占領し、国内法で「領土」に編入したのです。これがプーチン氏のいう第2次世界大戦の「結果」でした。

 自民党政府が領土で「正義」を主張するなら、この戦後処理の「不公正」の是正をこそいうべきでしたが、そうではありませんでした。

 1951年のサンフランシスコ平和条約では、「ヤルタ協定」の延長線上で「千島放棄」を宣言。その後、旧ソ連との交渉のなかで、従来、千島列島と認めてきた国後、択捉の南千島は“千島列島にあらず”という国際的に通らない主張を展開し、歯舞、色丹とあわせた「4島返還」論に固執してきたのです。

経済と並行させた歴代政権

 こうして歴代政権の交渉も戦後処理の「不公正」を問題にしない、だらしのないものでしたが、それでも旧ソ連や、その後のロシアとの交渉で、日本側が領土問題を棚上げすることまではしませんでした。

 1993年のエリツィン大統領との「東京宣言」では、「4島の帰属の問題を解決して平和条約を締結し、両国関係を完全に正常化するとの手順を明確化」することで合意、その立場は、橋本政権下の「クラスノヤルスク会談」(97年)「川奈会談」(98年)でも引き継がれました。

 次の小渕政権では、98年の訪ロの際に今回と同じように「共同経済活動」をすすめることで合意しましたが、その際も「共同経済活動委員会」と「国境画定委員会」を併設し、それまでの3会談の合意を再確認しています。

 ところが、今回の安倍・プーチン首脳会談では、最初にみたように領土問題は完全に棚上げされ、「プレス向け声明」には「領土」という言葉さえ入りませんでした。安倍首相は「原理原則という殻に閉じこもり、4島を返さない限り何もしないという強気の発言を続けていけば、世論の拍手喝さいを受けるかもしれないが、現状は1ミリたりとも動かせない」(20日)と開き直り、領土問題棚上げを正当化しています。

 しかし、領土問題が「1ミリたりとも」動かなかったのは、「正義」を主張し続けたからではなく、日本側の主張に大義と道理がなかったからにほかなりません。

解決遠のかせる展望ない道

 しかも、「プレス向け声明」で、「共同経済活動」を「平和条約の締結に向けた重要な一歩」と位置付けたことは重大です。

 そうだとすると、「共同経済活動」で協議が整わなければ領土問題の交渉に入れないことになります。仮に協議がまとまった場合には、ロシア側が「ロシアの主権に議論の余地はない」(大統領報道官)と主張しているもとでは、4島に対する日本の主権が損なわれることになります。

 いずれも領土問題の解決をいよいよ遠のかせる、展望のない道に迷いこんだというのが「共同経済活動」の実態です。

 今回の日ロ首脳会談は、歴代自民党政権が戦後処理の不公正の是正を領土問題解決の中心に据えず、ヤルタ協定とサンフランシスコ平和条約の手のひらのうえで交渉してきたやり方が大破綻した会談でした。それとの対比で、日ロの領土問題の解決は、「領土不拡大」という戦後処理の大原則に背く不公正を是正することを中心にすえ、全千島の返還を堂々と求める交渉をやるべきだという日本共産党の立場しかないことが浮き彫りになりました。


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