2016年12月25日(日)
主張
学習指導要領改定
偏った「資質」を押し付けるな
小中高校、特別支援学校の教育内容の基準とされる学習指導要領の改定に向けて中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)が答申を出しました。これまでの指導要領にはなかった「育成を目指す資質・能力」を、詳細に定めることを初めて打ち出しました。子どもたちの成長・発達に深刻なゆがみをもたらしかねません。
豊かな育ちが奪われる
分からない子どもがいても先に進む授業、暗記と反復で何のために学ぶのかが見えない、学年が上がるにつれてふえる勉強嫌い―子どもたちの学びには多くの課題があります。思いきり遊ぶことの減少、「いじめ」の広がり、まわりに気を使い本音が出せないなど子どものありようも心配です。教育内容の基準をつくるとすれば、こうした現実から出発して「どのような力を子どもに育てるのか」を教師や親が話し合い、子どもが瞳を輝かすような授業を考えていく上での手引となるものがいいのではないでしょうか。
しかし答申は、それとは正反対の方向でした。まず国が、子どもに身につけさせる「資質・能力」を決めます。その国の決めた「資質・能力」にそって、教育内容や指導方法、さらに評価のあり方まで定め、その通りに教師と子どもを動かそうというのです。これでは子どものための教育ではなく、お国のための教育そのものです。
この背景には、改憲をめざし、改悪教育基本法にそって“国家のための教育”を進めたいという安倍晋三政権の意図があります。「資質・能力」には、大企業が国際的に利潤拡大を追求するための「人材育成」に教育を従属させようという狙いもあります。偏った「資質・能力」が押し付けられれば、子どもたちの豊かな育ちが今まで以上に奪われます。
答申では指導方法として「『主体的・対話的で深い学び』の実現(『アクティブ・ラーニング』の視点)」を掲げています。
暗記型ではない豊かな学びは大歓迎です。しかしそれならば、教師が多忙で授業準備の時間も取れない現在の教育条件の改革にふみだすことが必要です。また国の号令で先行実施した「アクティブ・ラーニング」は、各地で特定の型の押しつけで形式化し失敗しています。指導方法の押しつけを一切やめ、教師自身の主体性や対話こそ保障すべきです。
答申は小学校「英語」の教科化などを打ち出しました。これは日本学術会議が英語教育の提言で「早期から目標言語(習得対象の言語)に触れる機会をつくればよいと考えるのは適切ではない」とし、専門家が「英語嫌いを増やすだけ」と反対してきたことです。飽和状態にある小学3〜6年生の授業が週1時間増えることも、子どもに疲労をもたらす深刻な問題です。英語を早く学んだほうが上達するという学問的根拠やデータはありません。英語教育研究の知見に耳を傾け、見直すべきです。
自主的な学校・授業を
憲法は国の教育内容への関与をできる限り抑制することを求めています。教育課程は各学校で編制し教員が授業で創意工夫することは国も否定できない大原則です。
いい授業が広がることを誰もが願っています。そのための共同を大切に、自主的な学校・授業づくりを進めましょう。