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2016年12月18日(日)

2016焦点・論点

憲法24条と夫婦別姓・再婚禁止期間

国の損害賠償を認めた最高裁元判事 山浦 善樹さん

歴史的瞬間に立ち会えた 男女平等への手掛かりに

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 夫婦別姓を認めない民法の規定を「合憲」とした昨年12月の最高裁大法廷判決から1年。15人の裁判官の中で、ただ1人、「違憲」に加え国の損害賠償責任を認める判断をした山浦善樹さん(70)が今夏退官し、そのときの思いを語っています。在任中に民法規定をめぐる三つの違憲訴訟の大法廷判決にかかわってきた山浦元判事に聞きました。(武田恵子)


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(写真) やまうら・よしき 1946年生まれ。弁護士。2012年3月から16年7月までの4年4カ月に最高裁判所判事。在任中に、婚外子相続分差別の訴訟、夫婦別姓訴訟、再婚禁止期間の訴訟で違憲判断を示す
撮影・山城屋龍一

 ―婚外子の相続分差別の違憲決定(2013年)は裁判官全員一致でした。しかし、夫婦別姓を認めない民法規定と女性の再婚禁止期間規定の合憲性が争われた訴訟では、「違憲」は少数意見でした。山浦さんはいずれも、「違憲」判断を貫き、原告に寄り添いましたね。

 最高裁の見学会に参加した子どもから「裁判官にとって一番大事なことは何ですか」と聞かれたことがあります。「公正」という言葉も大切ですが、「目の前にいる人たちは困っていることがあって訴えてきている。その人を助けてやろうという気があれば、立派な裁判官になれるよ」と答えました。

 法廷でも、困っている当事者に声をかけたい気持ちになります。夫婦別姓を認めない民法規定と女性の再婚禁止期間規定の合憲性が争われた訴訟は昨年11月、大法廷で弁論が開かれました。原告と双方の代理人が意見を述べ、15人の裁判官がこれを聞いて判断します。あの日の法廷は最高裁で男女(平等)の問題が真剣に語られた歴史的な瞬間でした。とくに原告は家庭でも職場でもつらい思いをして、国を相手にたたかってきました。私は法壇のうえから「ここまでよくがんばってこられましたね」と声をかけたい衝動にとらわれました。

真剣な思いに敬意

 最高裁の弁論では裁判官は発言しません。そういう慣例になっています。でも、法廷という場所は当事者が自分の考えを述べるとても大切な場所です。その真剣な思いに対し、裁判官はたとえ見解が異なっても敬意を表すことができれば良いと思います。たとえば「ありがとうございました」とか自然に出てくる適切な言葉が見つかるといいですね。

 ―夫婦別姓を認めない民法規定を「合憲」としたのは15人の裁判官のうち10人でした。5人は憲法24条(別項)に反するとして「違憲」判断をし、希望を与えましたね。

 3人の女性裁判官全員が「違憲」と判断したことから、「違憲対合憲」を「女性対男性」とみる向きもありました。しかし、男性裁判官にも女性の家族がおり、生活の中から、女性のおかれている立場を直接知ることは可能です。

 私は、女性裁判官の違憲説に賛同するとともに、1996年、法制審議会が選択的夫婦別姓の改正案を示してから相当期間たっていることなどを重視して、国の損害賠償責任を認めるべきだと判断しました。でも、長い間立法がされないから裁判所に訴えたのに、判決は、それを立法にゆだねるというのですから、国民の期待とは違う方向に向いていると感じました。

 この裁判では、裁判官一人ひとりの人生観が色濃く反映していると思います。私の場合、大学2年のとき、サルトル(仏作家、哲学者)とボーボワール(仏作家)が来日しましたが、この頃、ボーボワールの『第二の性』を読み、「人は女に生まれない。女になるのだ」という言葉に衝撃を受けました。男女の差別意識は自然なものではなく教育や家庭環境などにより植え付けられていくのです。

憲法に「寛容な心」

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(写真)判決を前に入廷する夫婦別姓訴訟原告4氏(最前列)と弁護団=2015年12月16日、最高裁前

 祖母は明治生まれ、父母は大正生まれです。戦後、学校では新しい憲法を教えるけれど、家庭に戻れば旧来の考えで子を育てます。でも私は父が出稼ぎ、母は女工で、守るべき「家」がないのでしがらみがありません。戦後生まれの私たちの結婚は、憲法24条を生かして、どんな問題も2人で決めていくと誓ったものでした。憲法は結婚する2人の希望で同姓でも別姓でも自由に選べる寛容な心を持っています。別姓を認めないなんて、憲法は求めていないのです。

 ―選択的夫婦別姓も、同姓、別姓の両方認める寛容な制度ですね。

 夫婦別姓を認めないという考えは、すでに社会的な合理性がなくなっているのが実情ではないでしょうか。法廷意見(多数意見)も、立法政策の問題だといっており、選択的夫婦別姓の合理性を否定してはいません。

 ―再婚禁止期間の違憲訴訟では、100日を超える部分についてのみ「違憲」とした多数意見に対し、制度自体を違憲とする反対意見を書きましたね。

 禁止期間の制度自体を違憲としたのは、鬼丸かおる裁判官と私の2人だけだったので、力を入れて反対意見を書きました。

 再婚禁止期間の規定は1世紀前につくられた旧民法を引き継いでいます。父性推定の日数の引き算の問題ではなく、明治憲法における男性優位の思想と家制度における封建的・性差別的な考え方が実はいまでも姿を変えてそのまま残っているのではないか。そう考えて旧民法制定当時の帝国議会における議論まで調べました。少数意見の限界を感じましたが、それでも言わなければならないと感じ、来る日も来る日も再婚禁止期間をめぐる調査に明け暮れ、それで私の69歳(昨年)の夏は燃え尽きてしまいました。(笑い)

 ―最高裁判決を受けて、今年6月、再婚禁止期間を100日に短縮する民法改正が行われました。

 付則に3年後の制度見直しが盛り込まれました。私の意見が、再婚禁止制度を撤廃し、男女平等社会の実現に近づくための手掛かりになればうれしいですね。


 憲法24条 婚姻は、両性の合意のみに基いて成立し、夫婦が同等の権利を有することを基本として、相互の協力により、維持されなければならない。

 配偶者の選択、財産権、相続、住居の選定、離婚並びに婚姻及び家族に関するその他の事項に関しては、法律は、個人の尊厳と両性の本質的平等に立脚して、制定されなければならない。


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