2016年12月14日(水)
主張
年金法案の可決
国民を置き去りにした暴挙だ
安倍晋三政権が提出した「年金カット」法案(国民年金法等改定案)が、参院厚生労働委員会で自民、公明の与党と維新の賛成多数で可決が強行されました。十分な審議が尽くされないまま、多数の力で押し切ることは、国民の声を無視した異常なやり方です。マスメディアの世論調査でも「反対」が多数にのぼる中、全世代の暮らしに直結する法案を強引に押し通した与党・維新の責任は重大です。与党は14日の参院本会議で可決・成立を企てていますが、不安や疑問を置き去りにしたままの暴走を許さず、廃案に追い込むことが必要です。
目減りと負担増で打撃に
物価が上がっても賃金水準が下がった場合は、年金が下がる―。安倍政権が「年金カット」法案で、国民に押し付けようとする年金改定の新ルール(2021年4月施行)です。これまで物価上昇時には年金額は上げるか、少なくとも据え置きで、減額はしなかった改定ルールを大転換しようという内容です。物価も賃金も上がったときに年金額を抑制する「マクロ経済スライド」の仕組みを強化し、年金額の抑制が翌年以降に持ち越される仕組みも導入(18年4月)するとしています。現在年金を受給している世代にも、将来年金を受け取る世代にも、長期にわたって影響をあたえる大問題です。
老後の収入の支えとなる公的年金が目減りし続けることに、多くの国民が不安を募らせ、共同通信や「日経」の世論調査では「反対」が6割近くにのぼり、直近のNHK調査でも「反対」は37%で「賛成」15%の倍以上です。「どちらともいえない」は40%もあり、多くの国民が法案にたいする疑問を拭えないままであることを示しています。何が何でも今国会の成立を急ぐ安倍政権と与党のやり方には大義も道理もありません。
わずかな審議の中でも、法案が国民にさまざまな痛みをもたらす実態や問題が次々と浮き彫りになっています。19年10月予定の消費税増税強行で物価水準が上がっても賃金水準が下がった場合は、新ルールが発動されて年金が下げられる危険は否定できません。いまでも少ない年金額の目減りと一体で、安倍政権が医療や介護の負担増をさらに強いる改悪を打ち出すもとで、高齢者の暮らしや健康を脅かす深刻な事態を招くことへの警告が委員会の参考人質疑などで相次ぎました。雇用が不安定で低賃金の若者世代には、安心できる制度になっていない状況の打開を求める切実な声も寄せられています。
高所得者の保険料上限を引き上げて財源を増やすことや、巨額な積立金の株運用拡大をやめることなど、“減らない年金”の確立へ向けて知恵を尽くすべきなのに、多くの論点は積み残しのままです。「成立ありき」で議論を尽くさず、採決を強行した安倍政権と与党などの姿勢は、極めて無責任です。
全世代の生活の保障こそ
年金減額は高齢者の購買力を弱めて消費を冷え込ませるため、経済にもマイナスです。現役世代の賃金や雇用にも影響します。
削減・抑制の強化ばかりでは、年金制度への国民の不信や不安は消えません。本会議での採決は強行せず、受給世代の年金保障とともに、現役世代の賃上げと安定雇用をすすめ、安心できる年金を実現すべきです。