2016年12月11日(日)
主張
原発事故処理費用
なし崩し国民負担増は許せぬ
東京電力福島第1原発事故の賠償や除染、廃炉などの費用をどう賄うか検討してきた経済産業省が、国の支援を拡大するとともに、消費者の電気料金や原発を持ったことがない「新電力」にも負担を求める方針を打ち出しました。事故を起こした東電の責任はあいまいにして、なし崩しで国民の負担を拡大するのは許されません。経産省は事故処理の費用を全体で約21・5兆円ともくろんでいますがそれだけで済まない可能性もあり、安易な国民への負担転嫁ではなく、東電の責任を明確にして、国と東電で必要な資金を確保する原則を確立すべきです。
巨額に膨らむ処理費用
経産省が財界人などでつくる「東京電力改革・1F(福島第1原発)問題委員会」で検討してきた案は、週明けの報告書提出後、安倍晋三政権で正式決定されます。必要とされる費用は、賠償はこれまでの5・4兆円が7・9兆円に、除染は2・5兆円が4兆円に、中間貯蔵施設は1・1兆円が1・6兆円に、最も困難な廃炉は2兆円が8兆円に膨らむ見込みで、総額では11兆円の見込みが21・5兆円と約2倍になります。
経産省は、賠償や除染の費用は国が東電に代わって支払い、賠償分は東電に加え沖縄を除く電力会社の負担で、除染分は担保に取った東電株の売却益で賄うとしています。東電への国の資金交付は合計13・5兆円に上る見込みで、今後国民負担も懸念されます。
賠償の費用を電力会社に負担させるため、経産省は積み立てが不足だったとする「過去分」2・4兆円の一部として原発を持たない「新電力」にも負担させることを持ち出しました。「過去分」の負担や「新電力」に負担を押し付けるのは道理がありません。「新電力」を含め電力会社の負担は、電気料金に上積みされます。
一方、中間貯蔵分は税金で賄うため丸々国民の負担です。廃炉の費用は事故を起こした東電の負担で、東電の利益は電気料金の引き下げに回さず、原発や送配電の事業で利益が拡大できるよう、停止中の柏崎刈羽原発の再稼働や他の電力会社との「共同事業体」推進を求めます。いわば、東電を“焼け太り”させるのに等しく、大株主や出資している大銀行の責任は求めていません。
東電福島原発事故は、もともと危険な原発に頼ったからというだけでなく、地震や津波の危険が指摘されていたのに、東電が必要な対策を怠り引き起こしたものです。その責任をあいまいにして、国の支援や消費者の負担を拡大し、東電自体はもうけを上げ続けるというのでは国民の納得は得られません。東電自体の破綻処理や大株主、大銀行の負担など抜本的な対策が不可欠です。
場当りではない抜本策を
安倍政権は、これまでも東電の事故処理費用が膨らむたびに、東電への国の融資や立て替えを増やし、他の電力会社にも負担を求めるなど場当たり的な対策を繰り返してきました。今回21兆円余りに引き上げられてもそれで収まる保証はなく、抜本的な対策を取らない限り同じことの繰り返しです。
膨らみ続ける事故処理費用は、原発がとてつもなく高くつくことを証明しています。国と東電が事故処理に責任を持つとともに、原発からの撤退がいよいよ急務です。