2016年12月7日(水)
きょうの潮流
入り江の穏やかな海が陽光にきらめいていました。観光客でにぎわう海岸線の広々とした公園や記念館。寄り添いながら海を見つめていた親子連れの姿が印象的でした▼数年前、ハワイ・オアフ島のパールハーバー(真珠湾)を訪ねたことがあります。現地時間でいえば75年前の12月7日、日本軍によって太平洋戦争の扉が開かれた地。歴史の足跡をたどろうと、今でも国や世代を問わず、多くの人が足を運んでいます▼安倍首相が「犠牲者の慰霊のため」真珠湾を訪問すると表明しました。日本の現職首相としては初めて。日米の和解や同盟強化の意義を発信したいといいますが、起こした戦争への反省なき人物が国を代表して何を伝えようというのか▼米国民の中には日本の真珠湾攻撃を「だまし討ち」と批判する向きが根強い。その怒りは現地の展示物や説明からも。アジア侵略から日米開戦に踏み込んでいった過去を省みることなしに真の和解もありえないでしょう▼いま日本では戦時下の日常をリアルに描いたアニメ映画が大勢を引き付けています。「この世界の片隅に」。ひとりの女性を通した市井の暮らし。人びとがつむいできた日々が戦争という暴力によって理不尽に奪われていく様子が淡々と▼普通に生きることの大切さ。若者をはじめ、共感が広がる幸せはそこに。戦争に至るまでの積み重ねと同じ道を二度と歩むまいという決意。追悼の地を訪れても、それがなければ単なるパフォーマンスと受け取られても仕方がありません。