2016年12月1日(木)
主張
介護「3割負担案」
どこまで痛みを強いるのか
社会保障費の削減をすすめる安倍晋三政権が年末の予算編成などに向け、医療や介護の負担増案を次々打ち出しています。先週末には3割の利用料負担を初めて介護保険に導入する案を示し、国民の不安と怒りを広げています。3割負担の対象は「現役並み所得」ですが、さらに広がる危険は否定できません。いまでも負担の重さに利用者・家族から悲鳴が上がっているのに、また負担増となれば暮らしは行き詰まります。痛みを強いるやり方は許されません。
2割に上がったばかり
厚生労働省が11月25日の社会保障審議会介護保険部会に示した素案は、2018年度からの介護保険改変のたたき台です。年内に意見をまとめ、来年の国会に関連法案を出す日程を描いています。
素案は、「現役並み所得」(単身者、年金収入のみで年383万円以上)の利用料自己負担を3割にすることを盛り込みました。3割負担導入は2000年の介護保険のスタート後、初めてです。発足以来15年ずっと1割だった利用料負担は昨年8月、一定以上の所得の人(単身者、年金収入のみで年280万円以上)が2割へ引き上げられたばかりです。
このとき厚労省は“負担が増えるのは余裕がある世帯”と説明するためにデータを都合よく書き換えていたことが発覚し、国会審議で大問題になりました。実際、2割負担が始まって以降、利用者・家族から「負担が増えて生活が成り立たない」などの痛切な声が上がり、中には負担に耐えかね、せっかく入所できた特別養護老人ホームの退所を検討した人も生まれています。「認知症の人と家族の会」などは深刻な実態を踏まえ、2割負担の中止・撤回などを求めているのに、3割負担案はこの願いに完全に逆らうものです。
厚労省は、「現役並み」高齢者は、医療保険で3割負担になっていることを挙げ、「介護3割」を正当化しますが、何の合理性もありません。病気がちな高齢者には「医療3割」自体重いものですが、それでも治療がすめば負担は基本的になくなります。しかし、介護はほぼ一生使う人が圧倒的です。この違いを無視し、暮らしの実態も踏まえないで「3割」にそろえるのは、あまりに乱暴です。医療と介護のダブルパンチで「現役並み」の人の暮らしを壊しかねません。
見逃せないのは、財務省などから介護「2割負担原則化」の要求が強まる中で3割負担が提案されたことです。「現役並み」を3割にしたのだから一般の高齢者も2割を受け入れよ―。そんな“高い方に合わせる引き上げの突破口”にされかねない危険があります。
月々の利用料が払い戻される仕組みの上限額引き上げが素案に盛り込まれたことも、利用者に打撃です。負担増ばかり迫る介護保険改悪の議論は、やめるべきです。
安心・信頼できる制度へ
厚労省が当初狙った要介護1・同2の生活援助の保険外し、車いすなど福祉用具レンタル料の負担増は、国民の厳しい批判の高まりで今回は見送られました。手あたり次第に介護保険の負担増・給付減をすすめる安倍政権の道理のなさは明白です。医療の負担増や年金削減に対しても国民の怒りが上がっています。社会保障破壊を許さない国民の共同をさらに広げ、強めることが急がれます。