2016年11月27日(日)
きょうの潮流
子どもたちのヒーロー、アンパンマンには、ばいきんまんという敵役がいます。生みの親やなせたかしさんは生前、人間の光と影を描こうと思ってつくり出したと語っていました▼絶望のとなりにはきっと希望がある。やなせさんが子どもたちに呼びかけたメッセージです。見知らぬ地でばい菌扱いされ、暴力を振るわれ、お金をせびられ、死の淵まで追い詰められた彼の心に希望の光は届いたのだろうか▼「いままでなんかいも死のうとおもった。でも、しんさいでいっぱい死んだからつらいけどぼくはいきるときめた」。原発事故で福島から転校してきた横浜の小学校で、いじめを受けていた男子生徒が手記につづっています▼「放射能」や「賠償金」。手記の中に出てくる言葉は、故郷を追われて傷ついた心をさらに。絶望のサインを受けとめなかった学校や市の教育委員会にも記者会見した両親は「何もしてくれなかった」「八方ふさがりになった」と不信感をあらわにしています▼いじめには教育や社会のあり方がかかわります。競争と管理の教育。弱者をいじめ、攻撃する社会や政治。苦しむ福島の住民に「最後は金目でしょ」と言い放った石原伸晃・元環境相のような人物も。政権の心ない姿勢がゆがんだ見方を助長しています▼子どもの世界はおとな社会を映す鏡です。手記を公表した男子生徒は、いま同じような境遇にある人たちに伝えたいと。「苦しくても生きて。死を選ばないで」。その励ましを生かすのはおとなの責任です。