2016年11月23日(水)
知りたい聞きたい
「裁量労働制」って何?
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「裁量労働制」とはどんな制度ですか。労働者一人ひとりが労働時間を決めるのですか?(大阪府・男性)
「裁量」を与えられない長時間労働
裁量労働制は、仕事の進め方を労働者の裁量にゆだねる必要がある業務で、業務遂行の手段、時間配分の決定などに使用者が具体的な指示をしないという制度です。
労働時間は、あらかじめ労使が協定した時間を働いた時間とみなします。協定が「8時間」であれば、実際は10時間働いても8時間とみなされて、2時間分の残業代が出ません。実際の労働時間をあいまいにして残業代を出さずに労働者を長時間働かせるために財界の強い要求で導入されました。効率よく働いて、6時間で仕事を終えれば2時間早く帰宅できるというのが財界の言い分ですが、仕事量が多すぎてそんなことはできません。
専門業務型裁量労働制(1988年導入)と、企画業務型裁量労働制(2000年導入)という二つのタイプがあります。
それぞれ対象業務が指定されています。専門業務型は、新商品研究開発、情報システムの分析・設計、デザイナー、弁護士など19業務。企画業務型は「企画、立案、調査及び分析」をおこなう労働者が対象です。とくに企画業務型は、企業内に労使委員会をつくり決議が必要などのきびしい要件があります。
裁量労働制で働いている労働者の割合は、企業規模1000人以上の場合で、専門業務型が1・2%、企画業務型が0・5%となっています。
違法運用まん延
裁量労働制の大きな問題は、違法な運用がはびこり、労働者が「裁量」のかけらもない長時間労働でひどい状態におかれていることです。
本来、労働者は労働時間を自分の裁量で決め、出退勤に会社が口出ししない制度のはずですが、そうなっていないのが実態です。たとえば日々の出退勤管理で「一律の出退勤時刻がある」のが専門業務型で42・3%、企画業務型で50・9%です(厚生労働省調査、2013年)。遅刻すると上司から注意されるなど企業のきびしい管理下で働いています。
裁量労働制の適用者にたいして、「残業代相当分」という「特別手当」を支給している企業が55%です。金額は企画業務型で月平均7・7万円です。
これもかなり実際とかけはなれています。日本共産党の小池晃書記局長が参院予算委員会(10月6日)で告発したソニーの労働者の事例をみてみます。
磁気テープの試作品製造の仕事をしていた50歳代の男性のケースです。専門業務型が適用され、「みなし協定時間」が1日7時間45分で、月25時間の残業代に相当する10万円の「エキスパート手当」が支給されていました。
しかし実際の残業時間は月平均65時間、もっとも長かった月は94時間にのぼり、ついに体をこわしてしまいました。仕事をする裁量など与えられずに長時間残業です。
しかも裁量労働制は、残業代は出さずにすんでも、深夜労働(午後10時〜午前5時)と休日出勤は割増手当を出さなければなりません。ソニーは、それも出していませんでした。仙台労働基準監督署から違法性が指摘され、是正指導をうけました。
きびしい制限を
「過労自殺」の事例もあります。大手機械メーカーのコマツで1999年12月、専門業務型裁量労働制が適用されていた34歳の男性社員が1日10〜19時間の長時間労働でうつ病を発症し、自殺しています(2002年に労災認定)。
政府が国会で成立させようとしている「残業代ゼロ法案」(労働基準法改悪案)では、企画業務型について営業などの業務に広げる規制緩和を盛り込んでいます。この改悪の方針を打ち出した政府の産業競争力会議の議員には、榊原定征経団連会長(当時東レ会長)とともに坂根正弘コマツ会長が名を連ねていました。
裁量労働制は、対象業務のきびしい制限と厳密な労働時間管理が必要です。
(2016・11・23)