2016年11月22日(火)
きょうの潮流
「あなたが以前、購入した商品にはコストがもっとかかっていたので、その分を支払ってください」。商品を買った後にそう言われたら、多くの人は怒り出すのでは▼東京電力福島第1原発の賠償費用を国民に負担させようと、政府が考え出した理屈がそれです。その仕組みを作ろうと急ぐ経済産業省の審議会資料に、こう書いてあります▼事故への備えを考えれば、福島原発事故前から賠償費用を確保しておくべきだった。しかし、その措置を講じなかったから、過去に売った電気は安く、それを利用した人たちに、過去に遡(さかのぼ)って「負担を求めるのは適当」という論法です▼専門家は「むちゃくちゃだ」と批判しています。事故を起こした東電の経営陣や株主、大銀行など利害関係者の責任をあいまいにした主張だと。それを問わずに、なぜ一足飛びに国民負担の議論なのかという指摘です▼なにより、巨額に膨らむ賠償費用を国民に求める一方、事故時の影響が大きい老朽原発をはじめ原発を次々に動かそうとする政府の無節操さにあきれます。国民負担を拡大するため、政府は「託送料金」に目をつけています▼大手電力会社が持つ送電網の使用料です。家庭の電気料金の3〜4割を占め、原発に頼りたくないと「新電力」を選んだ利用者にも負担させるねらいです。原発の廃炉費用も同じ仕組みで賄う検討中です。年内にも方向性を決めようとしており、拙速というしかありません。冒頭の話を家族に言うと、言下に「それは詐欺よ、気をつけないと」。