2016年11月19日(土)
主張
南スーダン自衛隊
危険な新任務は中止し撤退を
稲田朋美防衛相は18日、南スーダンPKO(国連平和維持活動)に派兵する自衛隊部隊に対し、戦争法(安保法制)で可能になった「駆け付け警護」と「宿営地共同防護」の新任務に関する命令を出しました。安倍晋三政権による新任務付与の閣議決定(15日)に基づくものです。20日から派兵を順次始める陸自第9師団第5普通科連隊(青森市)中心の部隊(第11次隊)が、来月12日から新任務を実行できるようにします。憲法9条を踏みにじり、自衛隊創設以来、初めての「殺し、殺される」事態になりかねない閣議決定と今回の命令は撤回こそ必要です。
9条違反の武力行使に道
南スーダンは、新任務の付与どころか、政府自身が決めた自衛隊派兵の前提である停戦合意や中立性など「PKO参加5原則」そのものが崩れているのが現実です。
南スーダンでは、2013年12月のキール大統領派(政府軍)とマシャール前副大統領派の武装勢力との戦闘が首都ジュバから全土に広がり、深刻な内戦に陥りました。15年8月には「和平合意」が結ばれたものの、今年7月にはジュバで再び大規模な戦闘が発生し、数百人が死亡しました。その後も戦闘は各地で続いています。
今月1日に公表された国連特別調査報告書は、7月の戦闘によってキール大統領とマシャール前副大統領との「和平合意」は「崩壊」したと断定しています。「PKO参加5原則」の停戦合意の破綻は明瞭であり、自衛隊は撤退すべきです。
稲田防衛相が命令した「駆け付け警護」は、PKO部隊(国連南スーダン派遣団=UNMISS)やNGOなどの関係者が襲撃された際、現場に駆け付けて救助する任務です。任務遂行のための武器の使用も認められています。
政府は、UNMISSの他国部隊を「駆け付け警護」することは「想定されない」とし、「安全性」を強調しています。しかし、戦争法(改定PKO法)にも、新任務について15日に閣議決定した「実施計画」にも、警護対象の限定はありません。稲田防衛相は、他国部隊の「駆け付け警護」について「排除することはない」(今月1日の記者会見)とも述べています。
7月の戦闘では、UNMISS関連施設なども攻撃・襲撃を受けました。国連特別調査報告書は、南スーダン政府軍の関与も指摘しています。自衛隊が「駆け付け警護」を行えば、政府軍と交戦する事態も起こりかねません。政府軍との戦闘は、憲法9条が禁止する海外での武力行使そのものです。違憲の戦争法の具体化は直ちに中止すべきです。
重大な「宿営地共同防護」
攻撃された宿営地を守るため他国部隊とともに自衛隊部隊が応戦する「宿営地共同防護」も重大です。政府は、自衛隊員の「自己保存のための自然権的権利というべき武器の使用」だとし、「武力の行使」ではないと弁明しますが、実態とかけ離れています。国際法上、「武器の使用」と「武力の行使」を区別した議論も存在しません。
そもそも現在のPKOは、武力を行使しての「住民保護」が主要任務であり、UNMISSはその典型です。自衛隊が武力行使を前提にした活動に参加できるはずがありません。日本には憲法の精神に立った非軍事の人道・民生支援の抜本的強化こそ求められます。