2016年11月3日(木)
きょうの潮流
その条文を初めて目にしたとき、愛国青年だった畑田重夫さんは絶対に生涯離すまいという思いにかられたといいます。そして93歳になる今も日本国憲法を持ち歩いています▼前文の冒頭からうたい上げた徹底した国民主権。家畜以下の扱いを受けた兵役生活から解放された「人身の自由」。何よりも戦争放棄と戦力の不保持を定めた9条。それを手にしたときの感激は忘れられません(『わが憲法人生 七十年』)▼敗戦の荒廃の中、新憲法が公布されたのは70年前のきょうでした。当時国会で天皇裕仁(ひろひと)が読み上げた勅語はこんな文言で結ばれています。「この憲法を正しく運用し、節度と責任とを重んじ、自由と平和とを愛する文化国家を建設するやうに努めたいと思ふ」▼日本を破滅へと導いた軍国主義から、平和と民主主義を掲げた新憲法のもとで新たな国づくりに踏み出す。時代の大きな転換を多くの国民は感動と喜びをもって受け止めました▼しかしいま、改憲に執念を燃やす安倍首相は世界に先駆けてきた新憲法の理念を、ふたたびひっくり返そうとたくらんでいます。新生日本の出発点となった11月3日。それを明治の時代を振り返る日にしようという自民議員らの動きも。戦前の「明治節」を復活させる逆行です▼日本国憲法がもつ新鮮で豊かな中身は、世代をこえて出会った人たちに。若手弁護士の白神(しらが)優理子さんは自分の生き方を変えたと話します。「人間の歴史が前に進んでいることを証明してくれる希望の存在」なのだと。