2016年10月21日(金)
主張
リニア財投3兆円
精査もない優遇 無責任過ぎる
リニア中央新幹線の建設加速のために公的資金を投入する方針を決めた安倍晋三政権の異常な前のめり姿勢が、国会審議のなかで浮き彫りになっています。財政投融資の仕組みを通じ政府が建設主体のJR東海に3兆円もの公費を低利で貸し付けるというのに、リニアの採算性や貸し付けの償還確実性がまともに検証されていない実態も明らかになり、安倍政権の無責任ぶりに批判が上がっています。首相は「巨大な経済圏をつくり、日本経済を成長させる」などとバラ色の幻想をふりまきますが、このままでは日本の未来に“悪夢”をもたらしかねません。
財務相“生きてないから”
リニア中央新幹線についてJR東海の当初計画は、2027年に東京(品川)―名古屋で開業させ、45年に大阪まで延伸させるというものでした。これに対し大阪延伸早期実現を求める声が財界などから上がり、安倍政権は8月に閣議決定した経済対策でJR東海に3兆円の公的資金を融資するテコ入れを通じて、大阪延伸を当初より8年前倒しさせることを決め、関連法案を国会に提出しています。
東京―大阪で見込まれる総工費約9兆円は全てJR東海が自力で資金を賄う予定でした。ただ同社の財務だけに任せると、名古屋までの工費約5兆5千億円の債務返済などにあてる8年間の「経営体力回復期間」を設ける必要があるため延伸の早期着工はできません。そこで、財政投融資によって民間銀行よりはるかに低い金利の資金を融資することで、「体力回復期間」をなくし直ちに大阪延伸工事に入れるようにしようというのです。政府が借り集めた資金を長期に低金利で固定して貸し付けるという、極めて破格の優遇策です。
重大なのは総工費9兆円の3分の1にあたる3兆円の巨額融資を行うのに、安倍政権がリニア計画の採算性や融資の償還可能性などを精査していないことです。そのことは日本共産党議員の衆参両院での質問で次々と明らかになりました。財務省の審議会は、普段は行う意見聴取もせず持ち回り会議で融資方針を決めました。需要予測も生産年齢人口の減少を加味していないことを政府は認めました。過去の新幹線建設では事業費が当初見込みより膨れ上がったケースが続出したのに、リニアは積算根拠すら不明瞭のままです。
JR東海社長も「ペイしない」といったように、リニア単独では赤字必至の事業です。想定外の難工事や事故で経営難に陥れば融資返済ができず、ツケは国民に回されます。麻生太郎財務相は返済の見込みを追及され「それまで生きている保証はないから、分かりません」と開き直りました。こんな無責任な姿勢は許されません。
徹底検証し計画中止こそ
南アルプスに大穴を開ける自然破壊、長大トンネル工事で排出される膨大な残土問題、活断層を横切ることの危険性などリニア計画自体に沿線住民の不安と批判が広がっています。認可取り消しを求める訴訟も始まっています。
自然と生活環境、国土を荒廃させる危険だけでなく、国民の将来に巨額の借金を負わせかねない危険まで強まってきたリニア計画をこのまま推進させることは未来に重大な禍根を残します。国会で徹底検証し、安倍政権に支援と計画を中止させることが必要です。