2016年10月12日(水)
きょうの潮流
「仕事も人生も、とてもつらい」。クリスマスで浮かれる周りをよそに、彼女の心を支配していたのは絶望でした▼昨年末、大手広告代理店電通の新入社員だった24歳の女性がみずから命を絶ちました。「眠りたい以外の感情を失った」。深夜に及ぶ残業が続いたうえ、上司からはパワハラ発言をくり返される。体も心もずたずたになっていました▼「毎朝起きたくなくない?失踪したくない?」。彼女がSNSに残した書き込みは、行き場のない心の叫びでした。遺族の労災申請に労基署は過労自殺を認めましたが、会社側は厳粛に受け止めるとのコメントを出しただけです▼電通では、25年前にも入社2年目の男性社員がすさまじい長時間労働で自殺しています。ずさんな労働管理、職場の抑圧的な雰囲気、成果主義…。当時と変わらぬ今の姿は命を奪った反省などなきに等しい▼このとき遺族が起こした裁判は2000年の最高裁判決まで。そこでは企業が労働者の心身の健康を損なうことがないように注意する義務を負うことを明確にしました。しかし現実はどうか。政府が初めて公表した過労死白書でも、残業が過労死ラインとされる月80時間をこえた企業が2割も▼年休の取得率は5割を下回ったまま。一方で職場でのいじめや嫌がらせの相談は増えるばかりです。今も多くの労働者が苦しみ、泣いています。「生きているために働いているのか、働くために生きているのか分からなくなってからが人生」。こんな悲しい言葉をいつまで。