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2016年9月18日(日)

2016とくほう・特報

“貧困バッシング”を考える

すすむ「見えない貧困」

“生活苦しい人は声あげよう”

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写真

(写真)貧困バッシングに抗議し、デモ行進する人たち=8月27日、東京都新宿区

 貧困と格差・不平等の是正が政治の重要な課題となるなか「貧困バッシング(攻撃)」が起こっています。NHKニュースで紹介された、経済的理由で進学をあきらめた母子家庭の女子高校生に、ネット上で「貧困ではない」「捏造(ねつぞう)だ」などの不当な非難が起こり、政権与党・自民党の片山さつき参院議員が加担しました。現代の貧困と、後を絶たない「貧困バッシング」の背景を考えます。(内藤真己子)


 発端は、8月中旬のNHK「ニュース7」が、神奈川県主催の高校生らによる貧困問題のイベントで、女子高生が経済事情から専門学校への進学をあきらめたと訴えたことを紹介。自宅で取材を受けた女子高生がクーラーがなく保冷剤で暑さをしのぎ、パソコンを持たずキーボードだけ買ってもらったと語ったことでした。

 ところが映像に映ったイラスト用ペンが高価だなどの指摘がネットで起こりました。本人のものとされるツイッターが暴かれ、アニメグッズを買ったり映画やランチに行ったとの投稿に攻撃がエスカレート。

 これに自民党の片山さつき参院議員が加担し、「チケットやグッズ、ランチ節約すれば中古のパソコンは十分買えるでしょうからあれっと思い方(ママ)も当然いらっしゃるでしょう」などと投稿。「NHKに説明を求め」るとし、「貧困の典型例として取り上げたのではなく」などとした、NHKの「説明」を投稿しました。

本人が勇気出し

 イベントを主催した神奈川県子ども家庭課の小島厚課長は「高校生自身が『子どもの貧困』を理解しようという取り組みで、ご本人が勇気を絞って現状を伝えるためにやったことが裏目に出た。ここまでやるかという感じはする」と当惑を隠しません。一方「(報道では)『子どもの貧困』が、ある程度の生活はできつつも進学などのまとまった費用は払えない『相対的貧困』だときちっと伝わらなかった。またそれ自体を受け入れられない方々も多いと感じている」と話します。

 「相対的貧困」は、その社会の大多数の水準の生活が送れない状態です。収入から税金などを引いた1人当たりの可処分所得が、真ん中の人の半分(122万円=2012年)に満たない人の割合を「相対的貧困率」と言います。日本の子どもの相対的貧困率は16・3%(2012年)。OECD(経済協力開発機構)34カ国の平均を大きく上回り、ひとり親家庭の貧困率は54・6%と、ワースト1位です。

 一方で貧困が「見えにくい」ことが特徴です。この問題にくわしい平湯真人弁護士は「進学したくてもできない、パソコンを家庭で与えることができない女子高生は、あきらかに貧困状態にある。その子の立場に即し、どういう支援が必要か知恵を絞っていく立場にこそおとな、ましてや政治家は立たなければならない」と語ります。

世界でも高水準

 貧困は子どもの問題だけではありません。おとなを含む日本の相対的貧困率は16・1%でOECD6位と高水準です。その結果、金融資産ゼロ世帯は30・9%にのぼります。

 都内で服飾関係の仕事をするクミコさん(30代独身)も都内の著名な服飾専門学校で学んでいましたが、父親が病気で退職、年間100万円程する学費負担を心配し、中退しました。学費の安い専門学校に通いながら販売のバイトをはじめ、その後、正社員職にも就きましたが、体を壊し退職してから派遣職を重ねたため、履歴書には派遣の経歴が並びます。

 「実務経験が積めないまま年齢は上がっていくので、いったん下りると再び正社員のルートに乗るのが難しい」。

 緩いパーマをかけた栗色のショートカットが似合うクミコさん。一見、「貧困」にはみえません。「スマホやパソコンは必需品です。仕事のタイムシートやデータのやり取りをします。仕事柄、服は一定買わざるを得ず、セール品や古着を買っています」。クミコさんは当初、正社員になれないのは自分の責任と思っていたといいますが、非正規労働を拡大した政治に問題があると気づきました。「女子高生への攻撃は、『貧しい人は普通の暮らしを我慢しろ』というもので許されない」

攻撃する側にも

 クミコさんも加わる、時給1500円の最低賃金を求めて活動する「AEQUITAS」(エキタス)は8月末、東京、名古屋、京都各地で「貧困叩(たた)きに抗議する緊急デモ」を行い“生活が苦しい人は声あげよう”とよびかけました。

 デモに参加した作家の雨宮処凛(かりん)さんは「女子高生が、映画をみたりランチをしているといって『貧困ではない』とこれだけ攻撃されるのは、日本の底が抜けていると感じました。攻撃している側にも貧困の被害者がいる」と語ります。

貧困拡大の責任

 そのうえで「自民党の片山さつき議員が乗り出したのは趣旨が違う。同氏は2012年に芸能人の親の生活保護受給をバッシングし、家族の扶養義務強化につながったことを成功体験にしているのではないか。子どもの貧困対策法の理念にも逆行する」と指弾します。

 井上英夫金沢大学名誉教授(社会保障法)は「貧困をとらえるうえで大事なのは憲法25条が『すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する』とうたっていることです。保障すべき水準は、ほかの人と同等の健康で文化的な生活ができるというもので、そのために同条2項では、国の保障義務とさらに向上増進義務をうたっている」と語ります。

 さらに「貧困は個人の責任というのは18〜19世紀の思想。貧困は社会によって生み出されるから国の責任で社会保障制度が作られてきた。ところが貧困は努力が足りないせいで、そういう人間は劣った処遇でいいという劣等処遇意識が広がっている。自民党政治が雇用の非正規化と、社会保障削減・営利化を進め貧困を拡大したことに原因がある」と批判します。

 いま安倍政権はさらなる社会保障の大改悪に乗り出そうとしています。井上氏は「安倍政権の悪政を許さないためにも、憲法の理念に立ち返り、個人の尊厳を問い直すときだ」と指摘します。


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