2016年9月11日(日)
主張
兵器研究助成18倍
先端科学の軍事動員をやめよ
防衛省は、2017年度予算案の概算要求で、大学や公的研究機関、民間企業に研究資金を提供し、研究者を兵器の研究開発に動員するための「安全保障技術研究推進制度」(研究推進制度)に110億円を計上しました。16年度予算の6億円から、一気に18倍へ増額させる重大な動きです。
軍拡競争に勝てる技術へ
防衛省の研究推進制度では、16年度までは1件あたり3年間で9000万円を限度に10件程度採択しています。17年度の概算要求では、これとは別に、明確な上限額や採択件数は定めず、1件あたり5年間で数十億円規模の研究を複数件採択するとしています。
巨額の札束を積み上げて、大学や民間企業が持つ最先端の科学・技術を軍事利用のために買い取ろうとするもので、税金を使った軍事動員と言わざるを得ません。
桁外れの増額要求の背景には、安倍晋三政権の野望があります。
その一つは、安倍政権がすすめる「戦争する国づくり」のために、他国との軍拡競争に打ち勝つのにふさわしい軍事技術を自衛隊が活用できるようにすることです。
防衛省の概算要求と同時に発表された「防衛装備・技術政策に関する有識者会議」報告書(8月31日)は、北朝鮮、中国、ロシアの兵器開発に対して、「将来にわたって『技術的優越』を確保」するために「研究開発を戦略的に実施すべき」だと強調しています。
さらに、防衛装備の研究開発予算は、欧米諸国と比べて不十分だとして、「研究推進制度」の拡充を求めています。米国防総省の研究計画局(DARPA)の予算は30億ドルにのぼり、米国の科学技術予算のうち半分は国防関連の研究開発に充てられています。防衛省は、米国のように、科学者を“戦争国家の下請け”として丸ごと取り込むことを狙っています。
加えて重大なことは、日本でも軍拡競争を支える「軍産複合体」が構築されつつあり、そこに大学や公的研究機関を本格的に参加させることを企んでいることです。
安倍政権は、2014年4月に武器輸出を原則解禁し、15年10月に軍需産業の育成・強化を図るために防衛装備庁を発足させました。これをてこに、産業を急速に軍事化し、「軍産複合体」の構築を加速する動きが強まっています。
経団連は「防衛産業政策の実行に向けた提言」(15年9月)の中で、防衛産業の基盤強化のために、大学に対して「安全保障に貢献する研究開発に積極的に取り組むこと」を求め、政府に「研究推進制度」の拡充を要求しています。「死の商人」への危険な衝動です。
平和のための研究こそ
「軍学共同」の動きに関係者の批判が広がっています。日本学術会議の軍事研究を拒否した二つの決議(1950年、67年)を受け継ぎ、軍事研究禁止を再確認する大学が、東北大、東京大、新潟大、京都大、広島大、琉球大などと相次いでいます。多くの大学では、安保法制反対の大学有志の会が集いを開くなどの運動もすすんでいます。こうした中、「研究推進制度」の応募数は15年度の109件から16年度は44件に半減しました。
防衛省の「研究推進制度」は、憲法9条を持つ日本にとっては「百害あって一利なし」です。一刻も早く廃止し、平和のための研究の振興に力を入れるべきです。