2016年9月11日(日)
ゆがめられた総会の宣言と運営
アジア政党国際会議 代表団座談会
筋を通した日本共産党代表団の活動
アジア政党国際会議(ICAPP)第9回総会が、マレーシアのクアラルンプールで2日から3日まで開かれました。志位和夫委員長(団長)とともに参加した日本共産党代表団の4人が、会議の特徴や代表団の果たした役割などを語りました。
共感を広げた志位委員長の発言
日本共産党代表団の構成団長 志位和夫委員長 副団長 緒方靖夫副委員長・国際委員会責任者 団員 森原公敏国際委員会副責任者 田川実同事務局長 小林俊哉国際局員 |
緒方 私自身、ICAPP総会には第2回から参加しています。今回は一代表団の横やりで宣言も会議運営もねじ曲げられる事態が白日のもとにさらされました。総会にとって重大な事態でしたが、総会を成功させるための活動は、大義があり、やりがいがありました。
田川 志位委員長は「東アジアの平和、核兵器のない世界をどう築くか」と題して発言しました。東アジアでの紛争の平和解決のために、(1)「軍事対軍事」の危険な悪循環に陥らず、どんな問題でも外交的・平和的に解決する(2)領土に関する紛争解決では、国際法に基づき、力による現状変更、武力の行使・威嚇など紛争を悪化させる行動を慎む―という二つの原則を提起しました。会場の反応や、後から寄せられた感想から、総会のメインテーマである「一つのアジア」にぴったりかみ合ったことがよく分かりました。
小林 発言では具体的な国の名前をあげていませんが、尖閣、南シナ海などの状況は周知の通りなので、参加者には、より鮮明に受け止められたようです。議長を務めた鄭義溶(チョン ウィヨン)ICAPP事務局長は「核心を突いた発言」だったと志位さんに握手を求めました。
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森原 核兵器の問題では、国連作業部会(OEWG)が核兵器禁止条約の交渉を来年中に始めるよう勧告する報告を採択したことを、国際政治での画期的前進として強調しました。それは、この問題を詳しく追っていなかった参加者にも伝わったようです。インド共産党(マルクス主義)の代表は、核兵器廃絶を呼びかけてスピーチを結びましたが、後から志位さんに「あなたの発言を引用させてもらった」と言ってきました。
小林 志位さんは英語でスピーチしたので、ストレートに伝わりました。現地マレーシアの国営通信の記者が、日本共産党の「北東アジア平和協力構想」を「興味深い」と、取材を申し込んできました。4日に配信された記事は「アジア大陸は、地域の平和と安全のため重層的な枠組みをつくってきた東南アジア諸国連合(ASEAN)から教訓を学べるはずだ」など、志位さんの言葉を引用しています。
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森原 「北東アジア平和協力構想」については、志位委員長と懇談したマレーシア戦略国際問題研究所のウォン次長も「きわめて具体的だ」と評価してくれました。ウォン氏は、韓国政府ともこの課題で意見交換していること、研究所内でも北東アジアの友好協力条約(TAC)についても議論を始めたことを教えてくれました。「構想」の有効性を示す興味深い話でした。
田川 出席した政党の4分の1の22政党と意見交換できたことは、今後の役に立ちますね。一昨年の総選挙、今年の参院選と日本共産党が議席を伸ばし、野党共闘に取り組んで、現実政治への影響力を強めていることへの注目を感じました。
議論を拒否した中国共産党代表団
田川 総会の「クアラルンプール宣言」の仕上げは、二転三転し、これまでにない事態となりました。
森原 本紙で報じているように、党代表団は「宣言」の核兵器部分には「保留」を表明しました。2010年、14年の総会宣言には入っていた「核兵器禁止条約の交渉開始」の支持・呼びかけが、削除されるという重大な後退があったからです。
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小林 宣言への提案は会議前から行っていて、7月の時点で核兵器廃絶、地域の平和・協力の枠組みの構築、国際テロ根絶についての文言の提案をICAPP事務局に送っていました。「核兵器禁止条約」への言及は、前回14年のコロンボ総会の宣言にも盛り込まれていました。
田川 ところが総会初日の2日に参加者に配られた宣言案には、「核兵器禁止条約」という言葉はありませんでした。地域情勢の項目でも、領土に関する紛争問題を国際法に基づき解決するという当たり前の内容がなく、驚きました。すると、中国共産党の代表団が日本共産党の提案に否定的で、紛争問題の解決についても「国際法を基礎に解決」と書き込むのに反対しているとの情報も伝わってきました。
森原 これは重大な事態だと受け止めました。志位委員長を先頭に、「核兵器禁止条約の速やかな交渉開始を呼びかける」という一文を明記することと、領土に関する紛争問題の解決で「国際法を基礎として」という言葉を入れるという内容の修正案を作成し、起草委員会に提出しました。私たちは起草委員会に入っていないので、委員会メンバーの各党に協力を要請することにし、中国共産党の代表団とも話をすることにしました。両党には、08年の志位委員長と胡錦濤(こ きんとう)総書記との首脳会談で“国際会議の場で核兵器廃絶などの課題で協力する”との合意がありました。
緒方 私が2日のお昼前に、中国共産党代表団の李軍・中央対外連絡部部長助理に直接会って要請しました。しかし、彼は私たちの修正案を受け入れようとはしません。私はコロンボ総会の宣言も見せながら、「今見せた修正案と同じ内容が入ったこの総会宣言は、中国も賛成して全会一致で採択されている。しかも、中国自身これまで核兵器禁止条約の締結を主張してきた。なぜ反対するのか」とただしたのですが、李氏は「過去のことは知らない」「こういう文を入れると侵略国の日本がまるで被害国のように宣伝されてしまうという問題もある」と言うのです。日本の被爆の話もその被害についても、修正案には何も書いていないのに、です。李氏は結局、理由らしい理由も述べないまま、「この問題については議論したくない。あなた方の提案は拒否だ」と話し合いを打ち切ってしまいました。
小林 その報告を受けて志位委員長が、緒方さんにもう1回、李氏と話し合うよう指示したのが、印象に残っています。
緒方 2度目の話し合いでは、李氏はさすがに「日本がまるで被害国…」という発言は「間違いだった」と認めました。しかし、核兵器禁止条約の交渉開始の呼びかけを宣言案に入れることについては、「できないこともある。それをはっきりさせればいいではないか。この問題ではできないと言っている。どうして無理やりやろうとするのか。こういうやり方には反対だ」と繰り返すだけ。国際政治の公理、原則に立って自らの言葉で語れないのです。
森原 緒方さんは理解を得るため話し合いを求め、反対の理由をたずねただけなのに、李氏は顔色を変えて立ち上がり、声も大きくなったので周りの人も驚いていました。「あなたは覇権主義だ。自分の意見を一方的に押し付けている」と、2度繰り返しました。
緒方 私は彼に「話し合いの結果として、反対することはもちろんありうる。しかし議論を拒否したら、両党間の議論は成り立たない」と言いました。問題は相互理解の前提である議論を拒否し、一方的に相手側を論断・非難したことです。中国共産党を代表している人物が、話し合いを問答無用と打ち切り、「覇権主義」とまで非難した。これは単に私への非難ではなく、私に李氏との話し合いを指示した志位委員長への、また日本共産党全体への非難となる。私は彼に「両党関係にとって深刻な問題だ」と言い、「この経過を公表する」と通告したところ、彼は「どうぞ、公表してください」と繰り返し、席を立ってしまいました。
小林 そんな状況が伝えられ、宣言に「核兵器禁止条約」が盛り込まれるか不安が高まりました。
田川 それでも、その夜の起草委員会で、日本共産党の修正案を鄭事務局長が紹介し、「当然の提案だ」と何人かの政党代表が賛成意見を述べると、中国共産党代表団を含めて異論は出なかったとのことでした。こうして一度は、国際法も核兵器禁止条約についても盛り込まれた最終案が固まりました。
小林 翌3日の午後には、その宣言案が配布されました。私たちはその方向で(「赤旗」の)記事も用意しました。ところが、午後5時からの閉会式が始まった後、新たに宣言案が配布されたのです。
田川 鄭事務局長の話で分かったのは、閉会式の直前になって、「ある代表団」が「このままでは賛成できない」と核兵器禁止条約の部分の削除を求めてきた。中国共産党の代表団です。そして、改めて起草委員会を開くこともなく、削除済みの案がそのまま採択に付された。日本共産党の代表団が部分的保留を表明したのは当然のことでした。
立場説明できず 会議のルール破る
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森原 一連の経過を振り返って痛感するのは、議論して理解を深めることを拒否する、会議のルールを破っても自説を通すという、中国共産党代表団の情けない姿です。反対するにしても、自分の立場を全体の前で説明できない。だからルール破りの腕力できたわけです。
緒方 話し合いを求めたら、意見の押し付けだと拒否して、「覇権主義」との非難を投げつけることに、35年前のことを思い出しました。ソ連のアフガニスタン侵攻(1979年)を取材して批判した際、ソ連共産党の機関紙プラウダから「オガタはCIA(米中央情報局)のエージェント(秘密情報員)だ」と書かれたことです。説明ができなくなると誹謗(ひぼう)する―それが覇権主義でした。
ソ連共産党は国際会議の場で自らの立場を通すために、ルールを力で破り、金をまき、陰謀をめぐらせた。しかしそのソ連でさえ、自分らには正当性がまったくないアフガン問題であっても、ソ連なりの「合理化」論を述べました。わが党の提起した東京での両党会談に応じた。議論を拒否して、途中で席を立つという行動はとりませんでした。今回、中国共産党代表団が自らの立場の説明さえ拒否した態度は、その意味で際立っています。
森原 国連加盟193カ国がそれぞれ国際政治の主役として登場している“G193”といわれる現在の国際社会において、国際会議、政党やNGOの会合の場で、自らの立場への賛同を得るには、国の大小にかかわらずルールに従って、議論をしなければなりません。
緒方 日本共産党と中国共産党の間には、相互に確認しあった自主独立、対等平等、相互尊重、内部問題相互不干渉の原則があります。今回の中国共産党代表団がとった態度は、この原則に照らして、大きな問題があります。