2016年8月30日(火)
主張
共謀罪法案
人権侵害の本質は変わらない
自民党政権がこれまで3度国会に提出し、そのたび人権侵害との国民の批判を浴びて廃案となってきた共謀罪について、安倍晋三政権が、またも法律化を図り9月召集の臨時国会に4度目となる法案提出をする構えです。思想・信条の自由など人権を侵害する共謀罪法案の提出中止を強く求めます。
名称など装いを変えたが
安倍政権は、今度は装いを変え、共謀罪の名称を「テロ等組織犯罪準備罪」とし、対象も「組織的犯罪集団」に限るとしています。しかし、以前から批判が集中していた対象犯罪については、前と同じ600を超えたままです。
共謀罪の本質は、犯罪が行われなくても「犯罪を共謀した」というだけで処罰をするというところにあります。近代の刑罰法では、思想・信条を処罰してはならないことは当然です。単なる発言だけでは、実行行為に至るかどうかは不明で、思想・信条を処罰する危険があるので、刑罰は犯罪行為が実行された場合のみを対象とする原則が確立されているのです。
これまでの共謀罪法案の提出の際に指摘されていたのは、飲み屋でうっぷん晴らしに上司を指して「あいつを懲らしめてやれ」「そうだ、そうだ」とつい大声をあげたことが共謀罪にされてしまうことでした。
今回はそういう行為だけでは犯罪とせず、「準備行為」という要件を加えるといわれています。しかし準備行為という定義はあいまいなうえ「資金や物品の取得」「その他」となっています。集団のうちの1人が犯罪の準備をしたということで、これまでと同様、まったく犯意のない人まで“同意をした”とされ、捜査当局の恣意(しい)的判断で犯罪者とされてしまう懸念は、依然として残っています。
対象についても、これまでの「団体」を「組織的犯罪集団」に変更しました。しかし、「2人以上で計画した」グループが組織的犯罪集団として追及されるわけですから、内容が変わったのではなく、一般の市民団体、NPO団体や労働組合などが、この法律の対象とされる危険はなくなっていません。
そのことは、「共謀」と関係のありそうもない犯罪類型も含めて、懲役・禁錮4年以上の犯罪と規定されているすべての犯罪が共謀罪の対象になっていることにも示されています。さらに、いったん法律が制定された後、対象範囲が拡大されるおそれもあります。
共謀罪そのものの本質に加えて、今年の通常国会で強行された通信傍受法(盗聴法)の改悪と合わせると、警察の捜査が国民の人権を侵す方向でいっそう広げられる危険が現実のものとなります。
通常国会では盗聴法案の審議のなかで、これまででも対象傍受のうち犯罪と関係のない会話が圧倒的多数を占めていることや、政府側が法律の目的としたはずの犯罪集団の上部指揮者の摘発にはほとんど成果を上げていないことなども明らかとなっています。
「だまし討ち」を許さず
7月の参院選で、自民党も公明党も共謀罪導入を公約していません。選挙が終わった途端、悪法を持ち出すやり方は、昨年の戦争法や、かつての秘密保護法の強行と同じで大義も道理もありません。安倍政権の「だまし討ち」を許さず、共謀罪法案の国会提出を断念させるたたかいが急がれます。