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2016年8月10日(水)

2016 焦点・論点

介護保険改悪 なぜ「国家的詐欺」か

認知症の人と家族の会代表理事 高見国生さん

保険外し 特養閉め出し 認知症対策にも逆行

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 安倍内閣は、昨年実施した介護保険改悪に続き、さらなる制度改悪を計画しています。その多くが介護保険を利用する認知症の人と家族は、改悪でどんな被害をうけ、今後どんな影響が危惧されるのか。「認知症の人と家族の会」の高見国生代表理事に聞きました。(内藤真己子)


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(写真)たかみ・くにお1943年福井県生まれ。京都府立洛北高校卒後、京都府職員を経て現職。共働きをしながら認知症の母親(養母)を約8年間在宅で介護し、1980年「家族の会」結成に参加。

 私たち「認知症の人と家族の会」は、2000年に介護保険制度ができたとき、介護を家族任せにしない「介護の社会化」の象徴として歓迎しました。ところが制度はどんどん後退し「国家的詐欺」とまで言われるひどいことになっています。

 直近では2015年実施の改定で、(1)要支援1、2の訪問介護、通所介護を保険から外し自治体事業に移す(2)年金収入280万円以上の2割負担(3)特養ホーム入所を要介護3以上に限定(4)低所得の施設入所者への食費・部屋代の補助要件を厳しくする―ことが行われました。

 議論の過程で、私たちは厚生労働省の社会保障審議会介護保険部会において、本当にそれで良いのかと問いかけ、最終的には委員の中で唯一「反対」を表明しました。法案が国会に出されたため、初めて独自の反対署名に取り組みました。会員に受け入れられるか心配しましたが、反響は大きく、3カ月余りで約8万7000人分が集まり、厚労省に提出しました。

費用払えずに退所余儀なく

 昨年末から会員に行った改定実施後の影響アンケートでは、生々しい弊害が浮き彫りになっています。なかでも施設の食費・部屋代補助の制限は被害甚大です。要介護5の妻が特養ホームに入所する60代の男性は月7・3万円の負担増になりました。「年金収入だけでは月1・5万円足らなくなる。仕方なく今年中に施設を退所させて在宅介護に切りかえるつもり」と、退所を余儀なくされる深刻さです。

 特養ホーム入所が要介護3以上に限定されたことで、要介護2の、夫の親を在宅介護している60代の女性は、「入所できないならショートステイをできる限り利用していくしかない。ただ蓄えが尽きたらどうしたらいいのか。これ以上、家での介護は無理。私の体がもたない」と悲鳴をあげています。

 こうした声を受け、私たちは4月、改定の撤回を厚労省に要望しました。ところが政府は改定を撤回するどころか、今後、要介護1、2の通所介護や訪問介護の生活援助、福祉用具レンタルを保険給付から外すことや、74歳までの2割負担などいっそうの給付抑制、負担増を検討し、来年の通常国会への法案提出まで計画しています。

 いま、介護保険は重大な岐路に立たされています。「会」では今月末、これらを実施しないよう改めて厚労省に要望する予定です。

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(写真)改悪による負担増で「(特養の負担が)2倍になり、ショックで介護者も体調を崩した」「介護費用のため土地建物を売却した」など痛切な声が寄せられたアンケート

税金の使い方変えることで

 期待した介護保険に暗雲がたなびき始めたのは、2006年に要支援1、2が作られたときです。「介護予防」と言いながら、実際は要介護1の大半を要支援にして、使えるサービス量を減らしただけです。小泉内閣が社会保障の自然増を毎年2200億円ずつ削っていった頃です。

 そのあたりから「財源論」が前面に出てきました。「利用者が増えたから、サービスを減らすか、利用料をあげるしかない」と政府は言いますが、家計なら支出が増えたときは必要性の薄いところを削ります。リニア新幹線、米軍への思いやり予算…、必要性はどれだけあるんでしょう。震災復興財源でも、所得税は増税したままなのに、法人税はすぐに廃止されましたね。僕らは税の使い方や集め方で改善・工夫すべきところがあると考えています。それとともに介護保険への国の負担割合をあげるべきだと主張しています。

腹をくくってもの言うとき

 認知症対策も大きな岐路です。認知症の高齢者は462万人、MCI(健常と認知症の中間状態)の400万人を合わせると、高齢者の4人に1人が認知症か予備軍といわれるなか政府は2015年、認知症対策の国家戦略「新オレンジプラン」を策定しました。

 認知症の基礎知識を学んだ「認知症サポーター」は770万人を超え、来年は京都で国際アルツハイマー病協会国際会議が開かれ、日本の取り組みを発信します。認知症はすべての人にかかわる社会的課題という認識が強まっているのは、大きな前進です。

 症状が初期のうちにプロが関わるのが大事だというのが「プラン」の精神です。医療や介護の専門職が早期に診断・対応する「認知症初期集中支援チーム」が18年度から全市町村に設置されます。また、認知症の人と家族が一緒に、専門家や地域の人と交流する「認知症カフェ」も重視しています。

 ところが政府が進める介護保険の見直し計画では、「初期集中支援」や「カフェ」のあとの対応が途絶え、初期の人へのサービスに空白ができてしまいます。病気が進むのは目に見えています。早期の診断・対応が重要といいながら、要支援ばかりか要介護1、2までも介護保険の対象にしないという政府の方針は、どこから考えても理屈が立ちません。

 “先に財政ありき”で社会保障予算の自然増を削るやり方に、福祉や医療にかかわっている人が声をあげるべきときです。厳しいところで頑張っている人がいま、ものを言わないといかんと思います。「こんなことやったら国民の反発を受けるぞ」と思ったら政府も考え直すでしょう。私たちが腹をくくって、この流れはあかんと、どれだけ言うかにかかっています。


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