2016年8月3日(水)
2016年版 防衛白書
自衛隊新任務へ“世論対策”
戦争法釈明、周辺国の「脅威」強調
戦争法=安保法制の成立・施行以来、初めて公表された2016年版防衛白書は、同法による自衛隊の任務拡大に向けた“世論対策”を意識した構成となりました。3月の施行以来、安倍政権がいまだ新任務に着手できない背景に、反対世論があることを自ら物語っています。
白書は、戦争法の説明のために単独の章を設け、▽なぜいま法制が必要か▽憲法との関係▽戦争に巻き込まれるリスク▽自衛隊員のリスク▽徴兵制に関する指摘―など、そもそもの疑問や懸念に答える計10本もの解説コラムを本文とは別に収録。巻頭特集でも、同法の成立・施行をトップ記事とし、「憲法違反」「戦争できる国になる」といった国民の声への反論に多くのページを割きました。
破綻ぶり裏付け
このこと自体、反対世論の根強さと、戦争法の破綻ぶりを裏付けています。ただ、いずれの記述も国会で追及され、まともな答弁ができなかった論点の焼き直しにすぎず、政権の一方的な宣伝といわざるをえません。
国際社会の動向をめぐる章では、北朝鮮の核兵器・弾道ミサイル開発や、中国の軍事動向を筆頭にあげ、両国に関する記述量も大幅に増やしました。両国への「脅威」観を強調し、不安をあおることによって、日米同盟による抑止力の強化や、戦争法の必要性への「理解」を広げたい思惑が見えます。
しかし、白書は「万が一の備えも必要」とか、「国際社会に積極的に貢献する必要がある」などと漠然とした理由をあげるだけで、北朝鮮や中国の問題が、地球規模で海外派兵を認める戦争法とどう関係するのか、一切説明していません。
“世論対策”向けに強調される「脅威」がある一方で、今後、戦争法による任務付与が想定する「脅威」に対しては、慎重ながら踏み込んだ記述もみられます。
軍事的に関与も
周辺国の領有権紛争が続く南シナ海問題では、中国の軍事施設整備に「懸念」を示す一方、「国際社会全体の関心事項だ」として日本としても軍事的に関与する姿勢をにじませました。国際テロの問題でも、7月のバングラデシュにおける襲撃事件を受け、「日本自身の問題として正面から捉えなければならない状況」と踏み込んだ認識を示しました。
(池田晋)