2016年8月3日(水)
安倍政権 経済対策最大の28兆円
リニア前倒し・自衛隊強化盛る
安倍晋三政権は2日、臨時閣議で経済対策を決定しました。28兆1000億円の事業規模は第2次安倍政権発足後の経済対策として最大です。大規模な経済対策が必要なこと自体、「アベノミクス」(安倍政権の経済政策)の行き詰まりと破綻を証明しています。
このうち“真水”といわれる国と地方の歳出は7兆5000億円です。複数年で執行し、第1弾は9月に編成する2016年度第2次補正予算案に盛り込みます。
経済対策にはインフラ整備として10兆7000億円を計上しました。6兆2000億円の財政措置のうち、国・地方の歳出は2兆5000億円程度です。中心は不要不急の大型プロジェクトです。リニア中央新幹線の大阪までの開業を最大8年前倒しするほか、整備新幹線や高速道路の整備・活用を推進します。観光立国を口実に大型クルーズ船を受け入れられるような港湾の整備や羽田空港の機能強化も進めます。
安倍政権が掲げる「1億総活躍社会」関連には3兆5000億円を投じます。3兆4000億円の財政措置のうち国・地方の支出は2兆5000億円程度。低所得者に対し、1人1万5000円の給付金を支給します。公的年金の受給資格を得るのに必要な期間を25年から10年間に短縮します。
「安全・安心の確保」の名目で「自衛隊の運用体制を強化する」ことまで盛り込みました。自衛隊の警戒監視態制の強化や、迅速な展開・対処能力の向上、弾道ミサイル攻撃への対応などを掲げています。
解説
「好循環」の偽り示す 国民負担のリスク増
安倍晋三政権が2日に閣議決定した「未来への投資を実現する経済対策」は第2次安倍政権発足後、最大規模の28兆1000億円です。普通なら経済対策=景気対策は選挙前に打ち出し、政権党の「目玉」公約にするはずです。ところが今回は参院選中にほとんど触れないまま、選挙後に大型経済対策を打ち出す異例の事態です。
安倍政権は経済対策を参院選の公約にできませんでした。国民の支持を得るどころか逆効果になると判断したことになります。「アベノミクスで好循環が生まれ始めた」「道半ばだ」という宣伝と大きく矛盾するからです。アベノミクスがうまくいっているなら、なぜ28兆円もの新たな対策が必要なのか。大型の景気対策を打たなければならないほど、経済の実態が悪いことを示すことになります。安倍政権が都合のいい経済指標を使って景気は良くなっていると主張しても、事実とも宣伝とも異なることが明らかになってしまいます。
第2次安倍政権がこれまでに実施した「経済対策」では、2013年1月の20兆2000億円が最大でした。政権交代し、アベノミクスを始める時期の対策です。「好循環が回り始めた」はずの今、なぜその当時を上回る規模が必要なのか、「好循環」が偽りだったことを示す証拠です。
今回の経済対策は国と地方の借金を増やし、ばらまきを進めるものです。安倍政権は参院選中、消費税増税に伴う社会保障財源の問題で民進党に対し“赤字国債だのみは無責任だ”と攻撃しました。
28兆1000億円のうち、「アベノミクスの果実」=税収増で賄われるのは1兆円程度。財政投融資で6兆円程度、建設国債も数兆円発行するなど新たな借金となります。
財政投融資はかつては郵便貯金や年金資金を運用していましたが、現在は財投債という国債を発行する借金です。借金頼みの経済対策を隠して、参院選を乗り切ったことになります。
中身も不要不急の大型プロジェクトなど、すでに何度も失敗し、効果がなかったものが中心です。将来世代に巨額の借金を負わせることになります。
目玉としてリニア新幹線の大阪延伸前倒しを掲げます。しかし、名古屋―大阪間はルートさえ定まっていません。何年先に始まるかどうかもわからない工事がなぜ景気対策なのか。しかも、JR東海に財投資金を投入して前倒ししても、仕事量が増えるわけではありません。景気対策にならないどころか、公的資金投入による国民負担のリスクが増えるだけです。
(清水渡)