2016年7月14日(木)
2016とくほう・特報
変貌する米軍岩国基地 山口
東アジア最大級航空基地に 再編で130機体制
空母艦載機の移転受け入れに投票者の9割がノーの意思を示した山口県岩国市の住民投票(2006年3月)から10年余。米日両政府が「米軍再編」で狙う米軍機約130機体制、米軍関係者10000人への増加がすすめられれば、岩国基地は東アジア最大級の航空基地へと変貌します。基地の現状と反対の声を上げる市民の運動をみました。
(山沢猛)
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米兵犯罪 40年間に820件
市民不安 「米軍住宅造るな」
「沖縄だけの問題ではない。岩国でも市民がおびえる生活が続くことになる」。同市の市民団体は6月11日、沖縄の元米海兵隊員による20歳の女性の暴行殺人事件にたいする緊急抗議集会を開きました。岩国基地は米海兵隊の常駐基地です。
戦争の拠点に
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よびかけ人の一人、牧師で幼稚園園長の大川清さん(58)は、「海外で人を殺すための訓練をしている海兵隊自体が脅威なのです。しかも自分たちのまちが戦争の拠点にされ加害者にされる。軍事力で平和はつくれません。日米安保条約のために市民が犠牲になってもいいのかが問われている」といいます。
岩国市では過去40年で820件を超える米軍犯罪が起きています。
「ここが恩田さんが殺された現場だよ」。愛宕山を守る会代表の岡村寛さん(72)は同市牛野谷(うしのや)地域の事故現場で話します。2010年9月7日、河川敷の畑から朝の作業を終えてきた恩田美雄さん(当時66歳)が見通しのよい道路上で米軍属の女性の車に衝突され、20メートルも吹き飛ばされました。
岡村さんは「恩田さんは錦南自治会の会長で、愛宕山に米軍住宅はいらないという運動を一緒にやっていました。事故のあとの米軍の対応があまりにひどすぎる」と怒ります。
米軍は加害者が通勤途上という理由で、地位協定にもとづき基地内での交通裁判にかけましたが、通勤をのぞく4カ月間の運転停止、交通ルールの学習という判決で事件を葬ってしまいました。
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夜中まで騒ぐ
いま市内に住む米軍人・軍属が増加しています。
瀬戸内海を見渡す高台の住宅地。米軍用の「Yナンバー」の車が路上に目立ちます。住宅の自治会長は米軍居住者のあまりのふるまいに警察に通報しました。仲間を呼び夜中まで音楽を鳴らし奇声をあげる、庭に炉を造ってバーベキューの火を屋根近くまで上げるということが続き、消防署も呼びました。
自治会長は「空中給油機移駐で一緒に移ってきた米兵でした。家賃補助が月10万円以上出ているから不動産業者は借家の紹介を米軍優先にしている」といいます。
現在、米軍人・軍属と家族で約5600人ですが、艦載機移転などが進むと10000人近くに膨れます。「合併前の旧市では10人に1人が米軍関係者になる。街がどうなっていくのか…」と自治会長は話します。
住民に懐柔策
「愛宕山に米軍住宅はいりません」―。愛宕山を守る市民連絡協議会の黄色いのぼりが牛野谷地域にはためきます。毎月「1の日」(月3回)には愛宕神社前で「見守りの集い」を開き、裁判闘争などのたたかいを継続しています。
市街地のほぼ中央部にある愛宕山。その開発で米軍専用住宅を押し付けるために、国と県、市は長年にわたり住民だましと懐柔策を続けてきました。
高さ120メートルで岩の多い愛宕山は滑走路の1キロ「沖合移設」という名の基地拡張のために土採り場にされ、半分の高さにされました。削り取られた跡地(75ヘクタール)の4分の3を防衛省が買収し、西工区に米軍将校住宅を、東工区にスポーツ施設をつくり米軍に提供し、条件付きで市民にも使わせるとしています。
岡村さんは「滑走路の沖合移転も米軍住宅建設もすべて日本の負担。米軍は痛くもかゆくもないから何をやってもいいという態度だ。自民党衆院議員だった福田良彦市長や市議会議長らは『基地と共存するまち』(市総合計画)を目標に、基地関係の補助金・交付金をふやすことを考えているだけ。こんな政治はもう止めないといけない」と話します。
日本共産党市議団(大西明子団長、4人)は福田市政の基地強化容認の姿勢を市議会で厳しく追及しています。
二つの部隊が
米軍再編と戦争法のもとで、岩国基地はどう変わるのか―。
山口県平和委員会会長の吉岡光則さん(70)は「いま岩国にいるのは、沖縄の第3海兵遠征軍の傘下にある第1海兵航空団第12海兵航空群という戦闘機を中核とする部隊です。海兵遠征軍という名前のとおり、真っ先に海外で敵地に上陸する部隊だ」といいます。
そして「再編が強行されれば、基地所属の米軍機は130機近くになり、嘉手納基地をしのぐ東アジア最大級の航空基地になる。しかも、海兵航空団と海軍の空母打撃群という米国の二つの『殴り込み部隊』が融合する出撃拠点に変わる。岩国が最も危険なまちになるということです」といいます。
米国は来年1月に、レーダーに捕捉されにくく垂直離着陸ができる最新鋭戦闘機F35Bを、海外の米軍基地では初めて岩国に配備することを決めました。
厚木基地から移転するのが、原子力空母ロナルド・レーガンの艦載機FA18スーパーホーネットなど59機です。陸上基地での着艦訓練やNLP(夜間着艦訓練)が欠かせません。爆音をまき散らす訓練をどこでやるのか、明らかにしていません。
MV22オスプレイ24機が沖縄に移動する前に岩国基地に陸揚げされました(12、13年7月)。その後、本土や韓国での訓練の中継基地にされています。陸揚げは「沖合移設」に便乗し水深13メートルの岸壁を整備したためで、3万トン級艦船の接岸が可能になりました。
KC130空中給油機15機が沖縄から移駐しました(14年8月)。自衛隊鹿屋基地(鹿児島県)も使い訓練をしています。
被害は全国に
岩国基地には海上自衛隊の航空機部隊(37機)が置かれています。「情報収集、機雷掃海、海難救助などを任務にしており、戦争法下で米軍との連携が強まるだろう」と吉岡さんは言います。
中国・四国地方では以前から、岩国基地所属機の低空飛行訓練が住民に被害を及ぼしています。谷あいや河川の上を超低空、かつ猛スピードで飛び攻撃する訓練です。11年3月に岡山県津山市で超低空飛行により民家の土蔵が崩壊する事件が起きました。島根県西部から山口県にかけた空域「エリア567」では「ドッグファイト」(戦闘機同士の空中戦)を行っています。
吉岡さんは「艦載機移駐が強行されれば中国地方だけでなく、四国・九州・近畿など全国に爆音や事故の被害を及ぼすことになる」と警告します。
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