2016年7月13日(水)
きょうの潮流
ずっと肝に銘じてきたといいます。放送の世界に入ったときに民俗学者の宮本常一さんから言われたことを。「電波の届く先に行って、そこに暮らす人の話を聞いてほしい。その言葉をスタジオに持って帰ってほしい」▼46年間も放送され続けた「永六輔の誰かとどこかで」はそんなラジオ番組でした。全国を旅して無名の人たちの話に耳を傾けた永さん。暮らしのなかで語られる市井人の言葉には重みも味わいもあると▼言葉の力を信じ、伝えることに心を砕きました。よく引用したのは井上ひさしさんの「むずかしいことをやさしく、やさしいことをふかく、ふかいことをおもしろく…」。自由にものが言える場所を何よりも大切にしました▼テレビの草創期に携わりながらラジオに活躍の場を移していったのも窮屈になったから。3年前の本紙インタビューでも語っています。「今もテレビで言いたいことが言えない。やりたいことができない」▼つねに権力の反対側で平和を脅かす風潮を批判してきました。イラクに自衛隊を派遣した際には「憲法をどう理解し、どう曲解すれば武器を持つ日本の軍隊が海外に行っていいことになるのだろう」▼憲法施行60年のときには本紙で「ぼくは99条の会」だと。この条文は、国会議員や公務員は憲法を守らねばならないという立憲主義の原則をうたったもの。それが破られようとしているいま、永さんなら何を発信したでしょうか。きっと暗くはならず、みんなを励ます言葉を。「上を向いて歩こう」