2016年7月11日(月)
きょうの潮流
「世界一偉大なシンガー」。亡くなったボクシングの元世界チャンピオン、モハメド・アリがそう評した伝説の歌手サム・クック。半世紀も前の米国で活躍した彼の曲は多くの歌い手によってカバーされています▼肌の色によって、あからさまな差別を受けていた時代。クックは「ア・チェンジ・イズ・ゴナ・カム」という曲をつくります。「これから何かが変わるに違いない」。希望の歌は60年代に起きた公民権運動の愛唱歌の一つになりました▼いままたその曲が歌われています。白人警官による相次ぐ黒人射殺事件。「何が起きているか見ていて」。撃たれて死んでいく恋人の姿を映した動画は全米に衝撃を与えました▼ひろがる抗議運動のさなか、こんどは黒人の元兵士に複数の白人警官が撃たれました。悲しみと憎悪の深さは、オバマ大統領が「米国は分断されていないと固く信じる」と呼びかけるほど▼人種が理由で警察から不公平な扱いを受けたと感じたことがあるか? 米CNNが数年前に行った調査で6割近い黒人が「ある」、白人の9割以上は「ない」と答えました。そこには失業や貧困、犯罪といった多くの黒人が置かれている絶望的な状況も横たわっています▼「私たちの命も大事だ。でも、白人の命だって」。テレビで黒人の若い女性が叫んでいました。クックやアリが夢見た差別のない、命が平等な社会。「もうダメかもしれない、そう思った時もあった。だけどわかるんだ。きっと、変化は起きるんだ」とくり返して。