2016年6月9日(木)
保育事故と規制緩和 (下)
命と未来の分岐点
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保育所で何が起きているのか、そして何が死を招くのか―。
保育事故で子どもを亡くした親たちでつくる「赤ちゃんの急死を考える会」の小山義夫副会長は、2000年以降、自民党政権が矢継ぎ早にすすめてきた「構造改革」「規制緩和」を指摘します。
▽保育所1カ所あたりの定員を増やし子どもを詰め込む▽非正規の職員を増やす▽保育への株式会社の参入…。
同会は2009年、それまで報告された死亡事故240件を分析。2001年以降は認可園でも事故が増えていることが分かりました。
「保育環境に余裕がなくなり、企業経営の園では『ブラック保育園』が目立ちはじめた。一方、子どもを尊重した保育をやればやるほど保育士が燃え尽き、辞めていく。結果、質の低下を招いている」と批判します。
労働条件冷遇
『ルポ保育崩壊』の著者でジャーナリストの小林美希さんは「待機児童解消にばかり目をむけ、両輪であるはずの保育の質、その根幹となる保育士の労働条件を冷遇してきたことが問題」といいます。
小林さんが注目するのが人件費です。この間、国の方針で公立園は次々とつぶされ、企業経営が急速に広がっています。
「まともな運営をすれば人件費は経費全体の7〜8割はかかる。しかし企業は利益を優先するため人件費を抑える。4割という所もあります。当然、保育士は使い捨てとなり、保育本来の趣旨からは離れていく」
園長が新卒、保育士全員が20代という園も増えているといいます。
その結果―。目をつり上げ、常に「だめ」「早く」としかりつける、すぐに謝らせる、事故を恐れ散歩は行かない、目が届かないからと狭い部屋に多数の子どもを詰め込む…。保育ではなく「まるで飼育」だといいます。
規制緩和が本格的に行われてから十数年。こうした園で過ごした子どもたちの表情は乏しくなり、小学校の先生たちが「あの保育園から来た子は荒れている」「おとなを信用しない」と口にする事態だと小林さんはいいます。
質の劣化続き
保育サービス産業は全サービス産業でトップの成長率。主要企業は軒並み2桁成長をつづけています。
保育研究所の逆井直紀・常務理事は「規制を緩和し、自由競争を促せば、保育の質が上がるというのは幻想でしかない。子どもは金もうけの道具になり、保育の質は劣化しつづけている。公費を投入せず、安上がり保育をつづけてきた弊害だ」と批判します。
日本の保育・幼児教育予算はGDP比0・45%。OECD(経済協力開発機構)で最下位です。乳幼児期のケアと教育は、人格形成に大きな影響を与えるとしてEU各国は充実に転換しています。
逆井さんはいいます。「保育政策はかつてなく注目を集め、重要な選挙争点にもなっている。野党共同で保育士処遇改善法案も提出された。保育士たちも立ち上がっている。今ここで転換できるかどうか。子どもたちの命と未来の分かれ道です」
(おわり)