2016年6月8日(水)
保育事故と規制緩和 (中)
“病死”で事故隠し
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乳幼児突然死症候群(SIDS)の疑い―。保育中の死亡事故の多くで出される結論です。事故死ではなく、いわば病死扱い。その後、原因の検証・分析がされることはまれです。
そんななか、施設側の責任を裁判で認めさせた遺族がいます。
大阪市の棚橋恵美さん(27)は、当時4カ月の長男・幸誠(こうせい)ちゃんを2009年11月、企業運営の認可外施設「ラッコランド京橋園」(大阪市、現在閉園)で亡くしました。働くため認可園を探しましたが空きはなく、やむなく預けて1週間のことでした。
一切の過失を認めない施設。恵美さんは施設と市を訴えました。
大阪高裁は昨年11月、死因は、うつぶせ寝で長時間放置したことによる窒息死だと認定。死因をSIDSだとする施設側の主張と一審判決を退けました。訴えて5年半後でした。
職員2人だけ
高裁では当時の唯一の有資格者が証言し、ずさんな保育がうきぼりになりました。
▽当時、17人の子どもを無資格の職員が2人だけで見ていた▽職員は常に2人。1人が給食の準備に入ると、子どもの面倒を含め全て1人で行う▽睡眠中の点検は外の窓からのぞく程度…。そして同企業の園での死亡事故は2度目でした。
市は有資格者の不足などを知りながら、業務停止などの措置をとっていませんでした。
「裁判を支援する会」事務局の仲井さやかさんは「監督責任がありながら放置した市の責任も大きい」といいます。同市は国の規制緩和を先取りし、人員や面積などの国基準の事実上の廃止まで申請しています。「行政は選んだ親の自己責任といわんばかり。『この流れはあかん』と幸ちゃんの死が投げかけている」と仲井さん。
事故後「自分を責めつづけた」という恵美さんは「幸ちゃんは戻ってこない。これ以上、苦しむ人を増やさないで」と話します。
圧倒的な不足
保育事故裁判に15年以上携わる寺町東子弁護士は「保育事故の多くは密室で起きており、因果関係の立証が難しい。SIDSを隠れミノにした事実の隠ぺい、再発をくり返している」といいます。また死亡事故は「虐待行為の延長線上におこっている」といいます。
入所者数で比べると、認可外の死亡事故は認可の60倍という試算もあります。認可外の有資格保育士は、認可の3分の1でよいとされています。事故が起きた施設で共通するのは、人手と経験の圧倒的な不足です。
寺町氏は「事故の7割が午睡中です。人手が足らないからと子どもをよくみない。また複数の子どもが同時に泣き叫んだとき受けとめるには『発達についての専門知識』と『保育現場での経験』が欠かせない」といいます。
泣く子どもに毛布をかぶせる、縛る、閉じ込める、たたく―。こうした行為が、無資格者や経験の少ない若手保育士のみの現場で多くおきているといいます。
政府は無資格者のいっそうの活用、子どもの詰め込みを提案しています。「子どもの命はさらに危うくなる。今やるべきは規制緩和でなく基準の強化です」(寺町氏)
(つづく)