2016年6月4日(土)
きょうの潮流
長引く避難生活や、いつまでも続く大地の震動。人は大きな地震に遭い、頻繁な余震に襲われると音に敏感になるといいます。東日本大震災を体験した同僚記者から聞きました▼ふだんは耳に心地よい音楽も聞きたくない。そんな気分になると。とくに、大編成のオーケストラのクラシック音楽はなんだか怖い。地震から1カ月ほど過ぎた頃に初めて聞いたCDは叙情的なギター演奏の曲だったといいます▼熊本の大地震後のテレビやラジオの音楽番組も、そんな被災者の気持ちにできるだけ寄り添うような姿勢がみられました。NHK・FMのクラシック番組でも、音楽どころではないという被災者がいることを念頭に選曲されていました▼その一曲はバッハのゴルトベルク変奏曲「アリア」でした。眠れない人のためにつくられたそうです。先の番組では、熊本の体育館でたまたま調律師の弾いたこの曲を聞き、心にしみたとの被災者の便りが紹介されました▼東日本大震災の直後には、ベルリンフィルが、ベルリン市内で追悼・支援のコンサートを開き、サイモン・ラトル指揮でブラームスの交響曲第4番を演奏しました。その同僚記者も日時がたってから同じ曲のCDを買い求め、体にしみいるように何度も聞いたといいます▼いま全国各地で熊本地震の復興支援コンサートが催されています。被災者への思いを込めた演奏。悲しいとき、つらいとき、落ち込んだとき、癒やしや生きる力を音楽はもたらしてくれます。人びとの心をつないで。