2016年5月28日(土)
きょうの潮流
大統領職を退いてから積極的な外交活動に努めたジミー・カーター氏。彼が米国の大統領経験者として初めて広島を訪れたのは30年以上前でした▼家族とともに平和公園に立ったカーター氏は原爆資料館にメッセージを残しています。「すべての人々が平和とより良い理解に向けて努力することを、絶えることなく永遠に思い起こさせるものでなければならない」▼戦後70年余。広島、長崎の被爆者たちは世界中の人々、とりわけ為政者がここに来て被爆の実相に触れてほしいと発信してきました。あまりに残虐な“悪魔の兵器”。それを使った唯一の国の現職大統領が、その地を踏みました▼憎しみと許し、過去の償いと未来への希望。いまだ日米に複雑な感情が渦巻くなか、オバマ大統領は、あの日、人類に解き放たれた恐ろしい力を確認するために来た、私たちは過去から学び核兵器を減らさなければならない、と▼変化があるとはいえ、いまもなお米国では原爆投下を正当化する意見が根強い。真珠湾のお返しだという人も。かつて「父と暮せば」で広島の苦しみを描いた井上ひさしさんは、原爆がいかに非人道な兵器なのかを強調し、こうした考えの誤りを指摘しました▼「記憶せよ、抗議せよ、そして生きのびよ」。原爆の悲劇を世界に語り続ける意義を説いた井上さんのメッセージは今も。核兵器のない世界へ。謝罪よりも核廃絶を。癒えることのない苦痛を味わってきた被爆者の願いは、世界が力を合わせてそれを実行することです。