2016年5月28日(土)
主張
伊勢志摩サミット
世界経済の危機打開は程遠い
8年ぶりに日本で開催された主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)が、首脳宣言を発表して閉幕しました。世界経済や国際的なテロ対策が主要議題といわれながら、直前の日米首脳会談での沖縄の米軍属による女性遺体遺棄事件の議論やサミット後のオバマ米大統領の広島訪問に関心が集まったように、サミット自体としては成果に乏しい会合です。最大のテーマといわれた経済問題でも、参加国の意見の違いを取りつくろうのが精いっぱいでした。これまでのサミット同様、世界経済の危機打開とは程遠い限りです。
サミットでは動かせない
サミットが最初に開かれたのは1975年11月、フランス・ランブイエの古城で、フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、イタリア、それに日本の6カ国首脳が参加しました(カナダは2回目から)。70年代初めの「ニクソン・ショック」や「オイル・ショック」が象徴したように、資本主義経済の不安定の拡大と発展途上国の台頭のなかで、景気の回復や通貨の安定がテーマになった会合でした。日本で最初に開かれた79年6月の東京サミット(第5回)も、第2次石油ショックによって世界経済が動揺を深めている最中でした。
それ以来サミットは毎年開催されてきましたが、20世紀が過ぎ21世紀を迎えても、世界経済は安定を取り戻せていません。しかも、70年代から主要資本主義国でそれまでの「総需要」拡大の経済政策に代わって「規制緩和」や減税で大企業の活動を活発にする「新自由主義」の経済政策が採用された結果、国外でも国内でも貧困と格差が拡大し、世界経済の不安定さはますます深まっています。
2008年9月のリーマン・ショックを機に、瞬く間に世界に広がった国際金融危機はその端的な表れです。世界経済はその打撃を抜け出せず、金融への規制も進んでいません。この間、新たに発足した欧州連合(EU)やロシアがメンバーに加わりましたが(ロシアはその後離脱)、主要国の経済不安が続き、一方、中国、インドなど新興国が経済力を拡大するとともに、世界経済はますますサミット参加国だけで動かせなくなっています。「リーマン」後の08年から、新興国を含めた20カ国・地域首脳会合(G20)が定期開催されるようになったのもそのためです。
今回の伊勢志摩サミットでも改めて世界経済への不安が指摘され、安倍晋三首相は「リーマンの前に似た状況」と主張しましたが、財政出動に消極的なイギリスやドイツなどとかみ合わず、首脳宣言に金融・経済・構造政策を「総合的」に動員すると盛り込んだのがやっとです。「タックスヘイブン」への対策や途上国の貧困対策も不十分です。世界経済の危機打開の展望は示せないサミットが存在意義を失い、新しい国際経済秩序が求められているのは明らかです。
「アベノミクス」不安拡大
参加首脳を伊勢神宮で迎えるという異常な演出をして見せた安倍首相にとっても、経済の不安は深刻です。世界経済の「危機」を持ち出すまでもなく、日本経済の再生を掲げた「アベノミクス」は破綻し国際的信頼も失っています。
世界経済の安定のためにも日本経済と国民の暮らしをどう立て直すのか、消費税増税を含め、安倍政権の立場がいよいよ問われます。