2016年5月24日(火)
核保有国を代弁 禁止条約に背
被爆国政府の恥ずべき態度
オバマ広島訪問で問われるもの
27日のオバマ米大統領の広島訪問まで1週間を切りました。核兵器を実戦で唯一使用した米国の大統領として被爆地・広島を初めて訪れるオバマ大統領。「核兵器のない世界」の実現に向けた被爆国日本の態度が厳しく問われる局面です。(山田英明)
137(賛成)対24(反対)対25(棄権)。国連に加盟する193カ国のうち、約7割の国が賛成する核兵器禁止条約の交渉開始を求める国連決議(「国際司法裁判所の勧告的意見のフォローアップを求める決議」)。日本は棄権した25カ国のうちの一つです(図)。
核保有国の米、ロ、英、仏、中はこの決議を含む、一連の核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議の大部分に反対もしくは棄権しています。(中国は「国際司法裁判所の勧告的意見のフォローアップ決議」などに賛成)
日本が同決議に棄権したのは、1996年にマレーシアが中心となって国連総会に同決議を提案してから昨年まで20年連続。マレーシアやメキシコ、オーストリアなど経済規模では日本よりも小さい国が国連では核廃絶を真正面から主張し、議論をリードしています。
核兵器禁止条約の交渉開始が世界のすう勢となるもとで、核兵器廃絶に背を向ける被爆国日本政府の姿勢が際立っています。
廃絶妨げる態度
なぜ、日本政府は核兵器禁止条約の交渉開始に背を向けるのか―。その根底にあるのは、「核兵器廃絶への近道は、漸進的な手法(段階的アプローチ)による現実的で効果的な方法だ」(2月23日、政府代表の発言)との考えです。「核抑止力」論に立つ核保有国が持ち出す理屈と同じです。
ジュネーブで2月、5月に開かれた核兵器廃絶にむけた国連の作業部会では、大多数の国が核兵器禁止条約の必要性を主張しました。
もとより核兵器保有国はこの作業部会に参加していません。作業部会で「漸進的な手法」を主張することで、核兵器保有国の意見を代弁し、核兵器禁止条約の交渉開始を妨害したのは日本政府でした。
会合をウオッチする民間団体の5月11日付リポートは、日本政府が、作業部会は法的事柄を判断する場として適当ではないと主張したと指摘しています。
日本政府の代表はこの会合で、北朝鮮による核・ミサイル開発問題を取り上げ、「核軍縮を考えるときには、北東アジアの安全保障環境を考慮しなければならない」(日本政府提出の第22作業文書)と主張。核兵器禁止条約の交渉開始については、「安全保障環境を見ると、われわれはいまだそのステージに立っていない」(2月23日の日本政府代表の発言)と拒否しました。
米国の核の傘の下で、いざというときに米国の核兵器に守ってもらわなければいけないから、核兵器禁止条約の交渉開始は時期尚早だという姿勢です。
核軍縮の部分的措置の積み重ねだけでは「核兵器のない世界」には到達しません。
インドやパキスタンなど新たな核保有国の誕生や北朝鮮による核・ミサイル開発問題などを見れば、この「漸進的な手法」が、核廃絶を永久に先送りし、実質的な前進を作り出せなかったことは歴史的な事実が証明しています。
迫る現実的危険
日本政府が2013年12月17日に閣議決定した国家安全保障戦略は、それまでの戦略にあった「非核三原則」を「堅持する」との文言を削り、「核兵器の脅威に対しては、核抑止力を中心とする米国の拡大抑止が不可欠であり、その信頼性の維持・強化のために、米国と緊密に連携していく」と打ち出しました。
15年4月27日に日米両政府が合意した新「日米軍事協力の指針」(ガイドライン)は、「日本は、『国家安全保障戦略』及び『防衛計画の大綱』に基づき防衛力を保持する。米国は、引き続き、その核戦力を含むあらゆる種類の能力を通じ、日本に対して拡大抑止を提供する」と明記。その新ガイドラインを具体化する安保法制=戦争法が3月29日に施行されました。
「核抑止力」論に固執し、米国の「核の傘」によってたつのが日本政府の姿勢です。
ところが、この“いざというときに米国の核兵器によって守ってもらう”という姿勢が現実的危険をもたらしています。
米国防総省が、昨年公開した歴史書の中で、沖縄の日本復帰後も「米国は…危機の際に核兵器を再持ち込みする権利を維持している」と明記していることが分かりました。米国が日本との核密約を認め、今なお沖縄を核基地として使用する権利を持っていると明示したものです。
将来的に米側が再配備を主張した場合、これを拒否できる法的根拠はありません。沖縄が核攻撃の拠点として使用されたら、被爆国日本が核戦争の足場にされる危険があります。「核の傘」頼みのツケが現実の核戦争の危険として迫っています。
交渉の促進こそ
日本政府は、「核抑止力」論をきっぱりしりぞけ、被爆国にふさわしい外交へとかじをきるべきです。核兵器廃絶を主題にした交渉の先頭に立つべきです。
被爆者はオバマ氏の広島訪問にあたって、「筆舌につくせない生き地獄を体験した被爆者の話を聞き、被爆の実相、被爆資料などに直接触れることを強く要望します」(18日、日本原爆被害者団体協議会の要望書)と求めました。「核兵器を使用しないことが人類の利益であり、核兵器の不使用を保証できるのは、核兵器廃絶以外にあり得ない」という強い思いからです。
核兵器の非人道性、残虐性を自らが体験した唯一の被爆国として、核兵器保有国を核兵器禁止条約の交渉のテーブルにつかせることこそ日本政府に求められています。
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