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2016年5月24日(火)

主張

リニア新幹線訴訟

安全にも環境にも疑念深まる

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 JR東海が2027年開業をめざし一部で着工しているリニア中央新幹線事業(東京・品川―名古屋)にたいし、700人を超える市民が国に事業の認可取り消しを求める訴訟を先週起こしました。リニア事業の中止を求める裁判は初めてです。自然環境や沿線住民の平穏な生活が壊されることや、大半を地下深く超高速で走行することの安全性や防災対策などについて国民が疑念と不信を抱き続けていることを浮き彫りにしています。JR東海と政府は「建設ありき」の推進姿勢をあらため、国民の声に耳を傾けるべきです。

活断層横切る不安高まり

 リニア中央新幹線事業は、JR東海が建設主体となり、27年に品川―名古屋で先行開業させ45年に大阪まで延伸させる計画です。沿線住民などから不安や疑問が出され、環境省も「環境影響は枚挙にいとまがない」と見直しを求める意見書を出しています。国土交通省は14年に事業を認可し、JR東海は品川や名古屋の駅整備や、南アルプスのトンネル工事の準備、用地買収などに着手しています。

 しかし、疑問や不安はなんら解消されていません。品川―名古屋ルートの86%を地下トンネルで貫く工事によって大量発生する残土の処分先が決まっていないこと、大規模工事の期間中多くの車両が行き交うことによる環境破壊などについて、沿線7都県(東京、神奈川、山梨、静岡、長野、岐阜、愛知)の住民や自治体などが多岐にわたる問題を具体的に指摘していますが、JR東海も政府も、まともに答える姿勢がありません。

 深刻なのは、地震への対応をはじめリニア運行の安全性に大きな疑問があることです。リニア建設ルートには糸魚川―静岡構造線など日本でも有数の活断層が多く存在しています。JR東海は、活断層の通過は「短い距離」にするなどと説明しますが、不安はぬぐえません。時速500キロという超高速走行中に、断層が大きくずれる巨大地震に直撃されたらどうなるのか。かりに「安全停止」しても、1000人もの乗客をどう地上まで避難させるのか。いまも活動が収まらない熊本地震の状態をみても、活断層がもたらす危険をいささかも軽視することはできません。

 JR東海は、リニア建設の理由の一つに東海道新幹線が南海トラフ巨大地震などで寸断された際の「う回路」をあげますが、新幹線とほぼ並走するリニアが地震で無傷ですむのか。説得力はありません。

 むしろリニア建設や残土処理によって南アルプスなど地形が大きく変わり、災害を拡大させる危険を警告する研究者も少なくありません。「災害に強い国土づくり」にも逆行しかねない無謀なリニア建設に道理はありません。リニアに9兆円の巨費を投じるのでなく、既存の新幹線などが巨大地震に耐えるかどうかの徹底的な点検と耐震補強こそ最優先の課題です。

中止の声を受けとめよ

 岐阜ではウラン鉱床近くにトンネルを掘ることに不安が広がっています。静岡では水脈の変化による水枯れが心配されています。

 人口減少社会のなかでリニアが経営的に成り立つのかという疑問も消えていません。このままの推進は将来に重大な禍根を残します。本格着工前の今なら間に合います。住民の声を受けとめ、政府は見直し・中止を検討すべきです。


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