2016年5月17日(火)
再批判 自民党改憲案(10)
国の宗教活動 大幅容認
自民党改憲案は、日本国憲法の信教の自由(20条1項)と一体の政教分離原則(同3項)を緩和しています。
靖国参拝正当化
国や自治体が「特定の宗教のための教育その他の宗教的活動をしてはならない」としつつ、「ただし、社会的儀礼又は習俗的行為の範囲を超えないものについては、この限りでない」と規定。改憲案Q&Aでは「これにより、地鎮祭に当たって公費から玉串料を支出するなどの問題が現実に解決されます」としています。「社会的儀礼」「習俗的行為」という名目で、国の宗教活動を大幅に容認することになります。
自民党は毎年の運動方針で「靖国神社参拝を受け継(ぐ)」という方針を掲げ続け、春秋の例大祭や8月15日の終戦記念日には政治家の集団参拝も繰り返されています。改憲案は、日本の侵略戦争を正当化する宣伝センターである靖国神社への政治家の参拝を既成事実化し、「社会的儀礼」として「憲法の範囲内」とするのが狙いです。
日本国憲法が信教の自由を保護するために厳格な政教分離を定めた背景には、戦前、国家神道の強制で国民の信仰の自由が破壊され、国民の戦争動員に利用されたことへの痛切な反省があります。自民党改憲案は、その反省を踏みにじるものです。
「戦死」と「合祀」
安保法制=戦争法の中で、過去の戦死者の問題でなく、自衛隊員の「戦死」が現実的危険として浮上しています。「戦争する国づくり」の課題として戦死者の国家的追悼が不可避となります。その中で、靖国神社の位置づけが新たに浮上する可能性があります。
自衛隊制服トップの統合幕僚長を務めて2009年に退官した齋藤隆氏は戦争法案審議開始直後の昨年5月26日、日本記者クラブで講演し、「国家国民に、戦死者にどう向き合うか考えてもらう必要がある」とし「国家に殉じた人たちの合祀(ごうし)を考える」必要性に言及しました。他方、靖国神社への「合祀」については、「まさに各国どこでもナショナルセメタリー(国家墓苑)を持っている。基本的には、中立で国民誰もが尊敬の意を示せるようなメモリアル(記念施設)を考える必要がある。私自身は『靖国』というイメージではない」と述べました。
地方の護国神社では、自衛隊の隊友会の申請により殉職自衛官が合祀されたケースがあり、今後、戦死者が出た場合、合祀が問題となりえます。
過去の戦死者については、国立追悼施設の建設が検討されてきましたが、「靖国」派の反対などで進んでいません。13年秋には、米国のケリー国務長官とヘーゲル国防長官(当時)が訪日に際して千鳥ケ淵戦没者墓苑に献花し、日本の政治家の靖国参拝へのけん制として注目されました。しかし、安倍首相は同年12月26日に靖国参拝を強行し、内外の厳しい批判を浴びました。(つづく)