2016年5月14日(土)
きょうの潮流
ぐしゃりと潰(つぶ)れ、屋根が地面に被(かぶ)さった家。大きく地割れした道路。あらゆる日常が一瞬にして奪い去られた熊本県益城町を目の当たりにしたのは、2度目の震度7に襲われた直後でした▼体育館の避難所では、支給される1人1個のカップ麺を求めて長い行列が。「じいさんと分け合って食べるのよ」。足の悪い夫に代わって並んだ高齢の女性がつぶやいた言葉が胸を突きました▼あれから1カ月。同町の避難所を訪ねると段ボール製のベッドが設置されるなど一定の改善がされていました。しかし、長期の避難所暮らしはきつい。ぐったりと寝転ぶ人が多く、その表情には疲労がにじみます▼こんなときこそ栄養のある、温かい食事が必要です。ところがいまだにカップ麺やパンだけの「食事」を支給する避難所が少なくありません。熊本市の避難所のなかには、3食満足に出ないところも▼避難所の食事は、災害救助法に基づき提供されます。政府が4月15日に熊本県に出した「通知」でも「適温食の提供」「栄養バランスの確保」など、生活環境の改善を求めています。しかし、取材するほどに痛感するのは程遠い実態です。いまだ車中泊を続ける家族など、憲法25条がうたう、人間が人間らしく生きる権利が踏みにじられています▼政府には「通知」を実現する責任があるはずです。避難所で話を聞いた、自宅が全壊したという男性は、切々と訴えました。「もう戻れる家はない。国や県に支援してもらわないと前にはすすめません」