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2016年3月25日(金)

2016 とくほう・特報

有料老人ホームで虐待急増なぜ

無理な規模拡大 職員体制薄く

利益が至上命令の介護企業

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 大手介護企業「メッセージ」(岡山市、資本金約39億円)傘下の株式会社が経営する、川崎市幸区の介護付き有料老人ホーム「Sアミーユ川崎幸町」で入居者3人が転落死、元職員の男性が殺人容疑で逮捕されています。容疑が事実なら、人命を奪った行為は絶対に正当化されません。一方、同施設では他にも虐待や死亡事故が起きていました。急増する有料老人ホームの問題をみました。  (内藤真己子)


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(写真)入居者転落死事件があった「Sアミーユ川崎幸町」=川崎市幸区

元入居者が証言

 「職員さんは飛んであるっ(歩い)てました。目が回って倒れそうでしたよ」。事件の数カ月前まで「Sアミーユ川崎幸町」に入居していた90代の女性は証言します。

 容疑者は「仕事のストレスがあった」との趣旨の供述をしているといいます。

 「入居者が80人近くで夜勤は3人でしょ。夜中にナースコールしたら若い子が疲れ果ててヨタヨタ入ってくるの。かわいそうで。具合が悪くてもコールを押さないようにしました。職員は次々に辞めていきましたね」

 転落死した男性入居者とは顔見知りだったといいます。「最初はおとなしくて話し相手になっていたんです。アルバムを見せてくれたりしてね。だんだん認知症が進んで一日歩き回るようになった。職員は大変そうでした」

 利用料は月25万円程度。払い続けられるのか不安があり女性が退去した後、事件が起きました。「職員がもっといて、違った対応があればこうはならなかったかも」。心を痛めています。

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(写真)事件のあった有老ホームに入居していた当時のことを、日本共産党の渡辺学川崎市議に語る女性=川崎市

他にも発覚

 同社系列の有料老人ホームでは、他にも名古屋市、大阪府豊中市などで虐待が発覚。厚生労働省は昨秋「メッセージ」社に、「法令遵守(じゅんしゅ)体制を見直す」よう勧告しました。

 有老ホームの虐待は2006年度の7件から14年度は67件へと急増しています。背景に有老ホームの激増があります。1989年に約1・6万人だった有老ホームの入居定員数は、2014年には約38・8万人へ24倍化しました。2000年に介護保険が創設され、有老ホームへの保険給付ができたことが大きな後押しになりました。

 高齢者住宅の賃貸管理運営などを目的に97年に設立した「メッセージ」は00年、同事業に本格参入し、わずか6年で100施設以上に拡大。その後、高齢者住宅に外付けの在宅介護サービスを組み合わせた「サービス付き高齢者向け住宅」事業にも着手し、施設数を15年に308施設(棟)へ広げています。

 今年3月には損保ジャパン日本興亜ホールディングスの子会社になりました。

急増で何が

図
(拡大図はこちら)

 急増で何が起きているのか―。西日本の不動産業者が母体のホームで3年間、主任として働いた女性(42)は語ります。「1年に2、3カ所施設をつくるといって『生活保護の人を狙ってとにかく満床にしろ。できないなら閉鎖してしまえ』と怒鳴られました。会社は売り上げのことしか言わない。介護の研修はなかったので入居者への対応は悪かった。利用者が転倒、骨折しても行政に届けないことがあった」

 有老ホームは個室ですが職員体制は必ずしも厚くありません。関東を中心に百数十施設を展開する株式会社のある有老は、入居一時金500万円前後に月十数万円の利用料。しかし職員は入居者3人に1人の最低基準(常勤換算)でした。介護付き有老の4割が同水準です。

 40代の元女性職員は証言します。「夜勤は入居者30人程度で1人。急変で救急搬送が必要なときは、まず非番の職員を電話で呼び寄せて119番することになっていました。待機番でも手当は出ませんでした」

 女性は2年足らずで離職。離職率は有老など民間介護企業が、特養等の社会福祉法人の1・6倍です。(14年度介護労働実態調査)

 特養で個室ケアの施設を持つ札幌南勤労者医療福祉協会の石井秀夫常務理事は強調します。「介護の手間が増える個室では、人員基準が最低2対1以上なければナースコールに対応できない。ふさわしい人員体制が虐待や事故防止の大前提だ」

 規模拡大にひた走る介護企業。医療・介護の経営コンサルタントの男性は、「介護事業というより資本の論理だ」と語ります。

 「家賃の前払いにあたる入居一時金の減価償却期間が過ぎると利益が落ち、新施設建設が必至だ。施設の給食やベッドのコストダウンにも規模拡大は欠かせない。株を上場すると、なおさら銀行融資など資金繰りの上でも利益を上げることが至上命令になる」

 「企業の経営責任が問われている」と強調するのは「21世紀・老人福祉の向上をめざす施設連絡会」の正森克也事務局長です。「施設が人員を確保し、きちんと職場研修して人づくりをしようとすれば、こんな爆発的な規模拡大は無理だ」

財界要求で

 特養ホームなど施設整備の遅れや介護保険の改悪も有老の需要を高めました。2005年に特養ホームなど施設の食費・居住費が自己負担化。15年には特養入所が原則要介護3以上に限定されました。いずれも介護給付費抑制と表裏をなす財界の意向に沿ったものでした。

 安倍政権が「介護離職ゼロ」で打ち出した12万人分上乗せの介護サービス整備計画。2万人分は「サービス付き高齢者向け住宅」で、これ以外にも有老ホームが含まれています。

 全国老人福祉問題研究会副会長の矢部広明さんは指摘します。「安倍政権は要介護1、2の生活援助を保険から外そうとしています。介護分野を『成長産業』と位置づけ、公的介護保障を削って、ますます民間営利企業の市場に明け渡そうとしています。この路線を続ける限り質の悪いサービスが増え、虐待などの問題はいっそう深刻になることが危惧される」

国は基準引き上げず

 介護職員による虐待は有老ホームに限らず増え、2014年度に前年度比35・7%増の300件、過去最高を記録しています。

 「介護施設の国の人員基準は入居者3人に職員1人ですが、入居者が重度化するなか施設が独自に増員しています。基準を引き上げない国の姿勢が大問題。16時間にも及ぶ夜勤もあり職員の負担は重い」。日本医労連の米沢哲執行委員は訴えます。同労組の調査では長時間の「2交代夜勤」が87%。うち65%が16時間以上です。

 特養ホームで働く全国福祉保育労働組合のある役員は語ります。「1人で夜勤する時間帯に同時にいくつものナースコールが鳴る。すごいストレス。『待ってください』の言葉もつい荒くなってしまう。そんな状況で認知症の方につかみかかられたりしたら、冷静に対応できるとは限らない。労働環境を変えないとだめだ」

 両労組は人員配置基準の引き上げや、介護職員の賃金の国庫負担による引き上げを強く求めています。


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