2016年3月20日(日)
きょうの潮流
東日本大震災から5年。文芸各誌(4月号)は、被災地の現在を見つめ、記憶の風化に抗する特集を組んでいます▼『新潮』は、福島県出身で震災1カ月後に浜通りを訪ね、いち早く原発事故を描いた作家・古川日出男氏と、反原発の活動でも知られるロックバンド「アジアン・カンフー・ジェネレーション」の後藤正文氏の対談を掲載▼2人は沖縄と福島を共に旅して、米軍基地と原発を押しつけられている周縁の地の共通性を痛感し、表現者として、中央から「一番遠くの音を聴く」姿勢を肝に銘じます。「平和の礎(いしじ)」に戦没者全員の膨大な数の名前が記されていることを挙げ、それとは対照的に、震災で「2万人」近くが亡くなりました、と3文字ですませてしまう危険性を訴えます▼『民主文学』は、日本共産党の福島県議・神山悦子氏、福島市在住の詩人・和合亮一氏、福島で取材を重ね『原発小説集』を出版した作家・風見梢太郎氏の鼎(てい)談(だん)を掲載▼「人間の復興」を進めたいと言う神山氏に、和合氏は「心の復興」のためには亡くなった人へ思いを届けることを避けては通れないとして、福島の人たちと神楽を創作し奉納する「ふくしま未来神楽」の取り組みを紹介。風見氏は、原発事故が全く収束していない現実を小説の形で書きたいと語り、原発問題と福島を書き続けていく大切さを強調しました▼被災者と死者一人ひとりの人生を掘り起こし、立ち上がらせる表現や創作が、震災の記憶を未来へつなぐ力になることを教えられます。