2016年3月12日(土)
主張
高浜原発首相発言
司法に逆らい再稼働続ける愚
安倍晋三首相が東日本大震災から5年にあたっての記者会見で、大津地裁が関西電力高浜原発3、4号機の運転差し止めを命じたことについて、「原子力規制委員会が規制基準に『適合』すると判断した原発を再稼働させる方針に変わりはない」「関西電力は安全性についてさらに説明を尽くしてほしい」などと発言しました。司法が運転を差し止めてもなお、高浜をはじめ全国の原発で再稼働を進める姿勢です。大津地裁の決定を受け、関西電力は3号機の運転を停止しました(4号機は停止中)。司法に逆らって原発再稼働に固執する安倍首相の姿勢は異常です。
規制基準そのものに疑問
大津地裁が運転停止を命じた高浜原発3、4号機は、原子力規制委が東京電力福島第1原発事故後に作った規制基準に「適合」と判断し、政府や福井県なども認めて、3号機は1月に、4号機は2月に再稼働した原発です。4号機はわずか3日で緊急停止しました。大津地裁が運転中にもかかわらず原発を停止させたのは、住民の不安を受け止め、規制委の審査自体に根本的な疑問を示したものです。
記者会見で従来通りの方針を繰り返しただけの安倍首相の発言には、そうした司法の判断を受け止める、真剣な姿勢がありません。なによりも原発事故から5年になるのにふるさとに帰る見通しも立たず、避難を続けている被災住民の気持ちを逆なでするものです。
大津地裁の決定は、原子力規制委が「適合」と判断したことを根拠に再稼働に踏み切った関電などの態度を、主張や疎明(=説明)が不十分だと批判しているだけではありません。規制基準そのものについて、福島事故の原因究明が不十分なのに、その点に意を払わないのは、「新規制基準策定に向かう姿勢に非常に不安を覚える」と指摘しています。地震や津波対策の見落としによって事故が起きても致命的な状態に陥らないよう基準は策定すべきであり、関電の不十分な説明では、規制基準や設置基準を「直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるを得ない」という地裁の指摘は重いものがあります。
こうした指摘をまともに受け止めるなら、運転中の原発を停止する司法の判断が出されてもなお、規制基準で「適合」となった原発は再稼働させるという首相の発言が出てくる余地はありません。規制基準は住民の避難体制を審査の対象外とし、避難計画は国や自治体にまかせていますが、大津地裁は「避難計画をも視野に入れた幅広い規制基準が望まれる」「そのような基準を策定すべき信義則上の義務が国家には発生している」ともしています。国が関与し自治体に万全の対策を取らせるというだけの首相の言い訳は通用しません。
経済性は理由にならない
安倍首相は経済性や温暖化問題をあげて「原子力は欠かすことができない」と主張します。しかし大津地裁の決定はこれについても、いったん事故が起きれば巨額の費用がかかり、環境破壊の及ぶ範囲はわが国を超えることをあげて、「発電の効率性をもって、これらの甚大な災禍と引き換えにすべき事情」はないと断じています。
安倍政権と電力会社はすべての原発を停止、再稼働を断念すべきです。司法の判断すら無視する、安倍首相の責任は重大です。