2016年1月28日(木)
志位委員長の代表質問
衆院本会議
日本共産党の志位和夫委員長が27日の衆院本会議で行った代表質問は次の通りです。
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私は、日本共産党を代表して、安倍総理に質問します。
冒頭、甘利大臣に“政治とカネ”の疑惑について一問伺います。あなたは2回にわたる50万円の受け取りについて「記憶を整理したい」とのべています。それは、50万円を受け取った記憶はあるが、それを正当化する「整理」がつかないということですか。それとも、受け取ったかどうかの記憶自体がない――この程度の金銭の授受は日常茶飯事で、記憶にとどまるようなことではないということでしょうか。しかとお答えください。
総理、甘利大臣の疑惑は、大臣どころか議員の資格にかかわる深刻な疑惑です。本人の説明を待つのではなく、任命権者として真相解明の責任を主導的に果たすべきです。その覚悟はありますか。答弁を求めます。
安保法制=戦争法廃止、立憲主義回復を求める
安倍政権は、昨年9月19日、国民多数の反対の声を踏みつけにして、安保法制=戦争法を強行成立させるという暴挙を行いました。
戦争法ばかりは、「数の暴力」で成立させられたからといって、それを許したままにしておくことは決してできません。戦争法はまず、内容の面で、憲法9条を踏みにじって自衛隊の海外での武力行使を行う仕組みが幾重にも盛り込まれている違憲立法です。さらに、やり方の面で、戦後60年余にわたる「憲法9条のもとでは集団的自衛権を行使できない」という政府の憲法解釈を、一内閣の勝手な判断で百八十度覆すという、立憲主義の破壊が行われました。戦争法は、内容も、やり方も、二重に憲法違反であり、廃止するしかありません。
南スーダンPKOに派兵されている自衛隊の任務拡大の危険
安保法制=戦争法は、日本にきわめて重大な危険をつくりだしています。
第一は、日本の自衛隊が、戦後初めて、外国人を殺し、戦死者を出すという現実的な危険が生まれているということです。私は、差し迫った重大な危険として、二つの問題について総理の見解を問うものです。
一つは、アフリカの南スーダンのPKO(国連平和維持活動)に派兵されている自衛隊の任務が拡大されようとしていることです。
改定されたPKO法は、PKOに参加する自衛隊に「安全確保業務」「駆け付け警護」という二つの任務を新たにできるようにするとともに、任務遂行のための武器使用もできるようにしています。総理、南スーダンに派兵されている自衛隊に、こうした任務の追加を行うことを検討しているのですか。
仮にこうした任務拡大となれば、きわめて危険な事態となることを強く警告しなければなりません。2013年12月以来、南スーダンでは、大統領派と副大統領派の武力衝突が起こり、住民を巻き込んでの激しい内戦状態に陥っているからです。数千人が殺害され、240万人が家を追われ、虐殺、レイプ、拷問などの残虐行為が行われ、多数の子どもが少年兵としてたたかうことを強制されています。複数回、停戦が合意されたものの、そのたびに戦闘が再開され、昨年8月下旬の和平合意後も、戦闘が続いています。
こうした状況下で、南スーダンのPKOの主要な任務は、「住民保護」とされ、そのために「必要なあらゆる措置をとる権限」――武力行使の権限が与えられています。「住民保護」のために、PKO自らが交戦主体――戦争の主体となって武装勢力とたたかう。これが南スーダンのPKOの実態なのです。
総理、南スーダンが内戦状態に陥っているという認識はありますか。南スーダンでは、停戦合意をはじめとする「PKO参加5原則」が崩壊し、自衛隊の派兵の法的前提がなくなっているではありませんか。にもかかわらず自衛隊の派兵を続け、その任務を拡大するならば、自衛隊が武力を行使し、武装勢力とたたかうことになるではありませんか。武装勢力といっても軍隊と民間人の区別はつきません。自衛隊が一たび、少年兵や民間人を撃ってしまったら、取り返しがつきません。
このような活動は、海外での武力行使を禁止した憲法9条のもとでは絶対に許されないと考えますが、いかがですか。日本の貢献は、憲法9条にたった非軍事の人道支援、民生支援に徹するべきです。総理の答弁を求めます。
過激武装組織ISに対する軍事作戦に自衛隊が参加する危険
いま一つは、過激武装組織ISに対して、米国をはじめとする「有志連合」が行っている軍事作戦に、自衛隊が参加する危険です。
ISのような残虐なテロ組織がどうして生まれたか。きっかけになったのは、2001年、米国等が開始したアフガニスタン報復戦争でした。「対テロ戦争」は、テロを根絶するどころか、その温床を広げる結果となりました。さらに、2003年、米国等が開始したイラク侵略戦争は、泥沼の内戦をつくりだしました。この二つの戦争の混乱のなかからISという怪物のようなテロ組織が生まれ、勢力を拡大していったのです。
戦争でテロはなくせない、テロと戦争の悪循環をもたらし、世界中にテロを拡散した。総理、この事実をお認めになりますか。米国によるアフガン・イラクの戦争に無条件の支持を与えた自民党政府は、きびしい反省が必要ではありませんか。
この歴史的教訓にてらしても、いま一部の国が行っているISに対する空爆など軍事作戦の強化では、問題は決して解決しません。それは多数の罪なき人々を犠牲にし、憎しみの連鎖をつくりだし、テロと戦争の悪循環をもたらすだけではありませんか。
安保法制=戦争法との関係で、私が、強く危惧するのは、政府が、ISへの空爆などへの自衛隊の軍事支援について、「政策判断として考えていない」としつつ、「法律的にはありうる」と答弁していることです。
総理に伺います。そういう「政策判断」をしている理由は何ですか。米国が、対IS軍事作戦を拡大し、日本に支援要請をしてきた場合に、それを拒否できますか。戦争法がある以上、拒否できず、軍事支援を行うことになるのではありませんか。テロと戦争の悪循環、憎しみの連鎖に、日本自身が入り込み、日本国民をテロの危険にさらす、そのような道は断じて許すわけにはいきません。
世界からテロをなくすために何が必要か。私は、国際社会が一致結束して次の四つの対策に取り組むことを提唱します。
第一は、国連安保理決議を厳格に実行し、テロ組織への資金・人・武器の流れを断つ断固たる措置をとることです。
第二は、貧困や格差、民族的・宗教的差別など、テロの土壌となっている問題をなくしていく努力を払うことです。
第三は、ISが支配地域を拡大してきたシリアとイラクでの内戦を解決し、平和と安定をはかるための政治的・外交的努力をつくすことです。
第四は、シリア国民の半数以上が難民として苦しむもとで、難民の人権を守り抜く国際的支援を抜本的に強化することです。
どれも困難を伴う大仕事ですが、この道しかないのではありませんか。総理の見解を求めます。
立憲主義の破壊――沖縄に対する憲法無視の暴圧
第二の危険は、安保法制=戦争法を強行したことによって、日本の政治が立憲主義の破壊という深刻な事態に直面しているということです。
立憲主義とは何か。たとえ国会で多数を持つ政権党であっても、憲法という枠組みは守らなければならないということです。国家権力が憲法を無視して暴走を始めたらどうなるか。独裁政治の始まりとなります。
これは誇張ではありません。たとえば、安倍政権が沖縄に対して行っている暴政は、憲法を無視し、法の支配を無視する、独裁政治そのものではありませんか。
昨年10月、沖縄県翁長知事は、知事選挙、総選挙などで繰り返し示された県民の圧倒的民意を踏まえて、名護市辺野古の米軍基地建設の埋め立て承認を取り消しました。それに対して、安倍政権は、国民の権利救済が目的の行政不服審査法を悪用し、埋め立て承認取り消しの効力を停止するという、違法行為で応えました。さらに、知事に代わって埋め立て承認取り消し処分を撤回する「代執行」訴訟を起こしました。
総理、これらはどれも、憲法が保障する地方自治と民主主義を根底から覆すものではありませんか。安保法制=戦争法と、沖縄に対する暴政は、立憲主義の破壊という点で根が一つだと考えますが、いかがですか。
翁長知事は、「歴史的にも現在においても沖縄県民は自由・平等・人権・自己決定権をないがしろにされてきました。私はこのことを『魂の飢餓感』と表現しています。政府との間には多くの課題がありますが、『魂の飢餓感』への理解がなければ、それぞれの課題の解決は大変困難です」と訴えています。
総理は、翁長知事のこの訴えにどう答えますか。名護市辺野古への新基地建設を中止し、移設条件なしに普天間基地は閉鎖・撤去すべきです。答弁を求めます。
安保法制=戦争法の強行によって、日本が「殺し、殺される」国になる危険が切迫しています。立憲主義が壊され、法治国家としての土台が壊されつつあります。このような独裁国家、戦争国家への道を断じて許すわけにはいきません。日本共産党は、憲法違反の戦争法を廃止し、集団的自衛権行使容認の「閣議決定」を撤回し、日本の政治に立憲主義と民主主義を回復することを、強く求めるものです。
暮らしと経済――「アベノミクス」の破綻と、日本共産党の提案
「アベノミクス」の3年間の検証と真摯な反省を
暮らしと経済の問題について質問します。
総理は、年頭の記者会見で、「この3年間で雇用が増え、高い賃上げも実現し、景気は確実に回復軌道を歩んでいる」と、「アベノミクス」の「成果」を自画自賛しました。しかし、1月の「読売」の世論調査でも、国民の71%が「安倍内閣のもとで景気の回復を実感していない」と答えています。
たしかに大企業は、2年連続で史上最高の利益を更新し、内部留保は3年間で38兆円も増え、初めて300兆円を突破しました。
一方で国民の暮らしはどうか。総理は「2012年10〜12月期から2015年7〜9月期で就業者が117万人増えた」と言います。しかし同じ期間の同じ統計によれば、正社員は1万人減っています。結局、増えたのは不安定な非正規雇用だけではありませんか。
総理は「高い賃上げを実現」したと言います。しかし物価上昇を差し引いた労働者の実質賃金はこの3年間でマイナス5%です。年収400万円のサラリーマンで言えば、年間20万円もの賃金が目減りしているのです。
総理は、実質賃金の低下は「パートの比率が増えたから」と言いますが、パートを除く一般労働者で見ても、名目賃金の伸びはわずか1・7%、物価上昇分にはるかに及ばず、実質賃金は大幅マイナスです。「高い賃上げの実現」といいますが、事実はまったく異なるではありませんか。
総理、都合のいい数字をもてあそぶのはいいかげんにやめるべきです。国民の暮らしの現実に立った「アベノミクス」の3年間の検証と真摯(しんし)な反省が必要です。「大企業をもうけさせれば、その恩恵がいずれ庶民の暮らしに回る」という古い「トリクルダウン」の考えに立った「アベノミクス」の破綻は、もはや明らかではありませんか。総理の見解を問うものです。
「貧困大国」からの脱却を、しっかりと政策目標にすえる
暮らし最優先の経済政策への根本的転換が必要です。そのさい、私は、日本社会の大問題となっている「貧困大国」からの脱却という問題を、しっかりと政策目標に据えることが、きわめて重要になっていると考えます。
日本の相対的貧困率は16・1%。年を追うごとに悪化し、OECD(経済協力開発機構)加盟34カ国の中で悪い方から数えて6番目です。一人親家庭の貧困率は54・6%。OECD加盟国で最悪です。国民の多くが突然貧困に陥る危険と隣り合わせで生活しているのです。
「貧困大国」からの脱却は、すべての国民に「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を保障した憲法の要請であるとともに、家計という経済の最大のエンジンを温めて経済の好循環を生み出すカギとなります。
私は、あらゆる経済政策の是非を判断するモノサシとして貧困と格差の問題を据える――その政策の実行が貧困と格差を是正する方向に働くのか、逆に拡大する方向に働くのかを、経済政策の基準に据えるべきだと考えます。総理の見解を求めます。
貧困と格差をただし、暮らし最優先で日本経済再生をはかる四つの提案
日本共産党は、この立場から、貧困と格差をただし、暮らし最優先で日本経済再生をはかる四つの提案を行うものです。
第一は、消費税の10%増税の中止です。
政府が「軽減税率」と喧伝(けんでん)しているものの実態は、食品などの税率を8%に据え置くというだけで、10%への増税で総額4・5兆円、1世帯当たり6万2千円もの大増税となることが明らかになりました。所得が低いほど重くのしかかる逆進性がさらに強まることも政府は認めました。10%への増税が、景気悪化の引き金を引き、貧困と格差に追い打ちをかけることは明瞭ではありませんか。
その一方で、大企業に巨額の減税バラマキが行われています。安倍政権がこれまで実施した企業減税は3兆円、来年度以降さらに1兆円。しかしその結果は、賃金にも設備投資にも回らず、内部留保が積み上がっただけではありませんか。
庶民から増税で吸い上げ、大企業に減税をばらまく――逆立ちした税制を根本からあらためることを強く求めるものです。
第二は、社会保障を削減から充実に転換することです。
安倍政権の3年間で、社会保障費の自然増が、毎年3千億〜5千億円の規模で削減され、介護報酬の削減、生活保護の切り下げなど、貧困と格差に追い打ちをかけてきました。社会保障をボロボロにする自然増削減路線は中止すべきではありませんか。
年金削減の中止、医療費の窓口負担・国民健康保険料の軽減、特養ホームの入所待ちの解消、保育所の待機児ゼロなど、安心できる社会保障の実現を強く求めます。その財源は、まず何よりも、富裕層と大企業への優遇税制をただし、応分の負担を求める税制改革でまかなうべきです。総理の答弁を求めます。
第三は、人間らしく働ける雇用のルールをつくることです。
この3年間、総理が経団連に「お願い」したにもかかわらず実質賃金は大きく低下しました。総理は、その原因はどこにあるとお考えですか。私は、その最大の原因は、労働法制の規制緩和によって、低賃金・不安定の非正規雇用が4割を超えたこと、過労死を生み出す長時間・過密労働のまん延――二つの雇用破壊が進んでいることにあると考えますが、いかがですか。
労働者派遣法を抜本改正し、均等待遇のルールを確立し、非正規から正規への転換を進めるべきです。「残業代ゼロ法案」を撤回し、「サービス残業」の根絶、長時間労働の規制をはかり、ブラック企業、ブラックバイトを根絶すべきです。フルタイムで働いても貧困から抜け出せない最低賃金を抜本的に引き上げるべきです。答弁を求めます。
第四は、TPP(環太平洋連携協定)交渉から撤退し、日本の経済主権を回復することです。
2013年の国会決議では、農産物の重要5項目――コメ、麦、牛・豚肉、乳製品、砂糖は、関税撤廃を認めない――「聖域」にするとしています。そして自民党はこの決議を守ることを国政選挙の公約にしたはずです。ところが、「大筋合意」では、重要5項目のうち30%の品目で関税が撤廃され、コメでも関税ゼロの「特別輸入枠」を新たにつくっています。これは明白な国会決議違反、公約違反ではありませんか。
日本の食料と農業、食の安全、経済主権を米国に売り渡すTPP交渉からの撤退を強く求めます。農産物の価格保障と所得補償を組み合わせて、安心して再生産できる農業をつくることこそ政府の責任ではありませんか。
以上、4点のわが党の提案に対して、総理の見解を求めるものです。
「緊急事態条項」の問題点――あらゆる解釈・明文改憲に反対する
最後に、憲法改定について質問します。
総理は、「大規模な災害が発生したような緊急時において、国民の安全を守るため、国家そして国民自らがどのような役割を果たしていくべきかを憲法にどのように位置付けるかについては、極めて重く大切な課題」と述べ、「緊急事態条項」の新設が憲法改定の重要なテーマになるとの考えを示しています。そこで伺います。
第一に、「自民党改憲草案」の「緊急事態条項」では、戦争や大規模災害のさいに、首相の「緊急事態の宣言」のもと、「内閣は法律と同一の効力を有する政令を制定することができる」、「何人も……国民の生命、身体及び財産を守るために行われる措置に関して発せられる国その他公の機関の指示に従わなければならない」――内閣への権力集中と国民の基本的人権の制約を行うことを明記しています。
総理は、こうした規定を、憲法に明記することが必要だと考えているのですか。
第二は、災害対策が「緊急事態条項」の理由になるかという問題です。東北弁護士会連合会は、「災害対策を理由とする国家緊急権の創設に反対する会長声明」を発表し、つぎのように述べています。
「確かに、東日本大震災では行政による初動対応の遅れが指摘された事例が少なくない。しかし、その原因は行政による事前の防災計画策定、避難などの訓練、法制度への理解といった『備え』の不十分さにあるとされている。……日本の災害法制は既に法律で十分に整備されている。……国家緊急権は、災害対策を理由としてもその必要性を見出すことはできない」
この批判に総理はどう答えますか。
「緊急事態条項」は、独裁国家、戦争国家に道を開き、憲法9条改定につながる、危険きわまりないものです。
日本共産党は、解釈改憲とともに、あらゆる明文改憲に断固として反対します。日本国憲法の平和主義、立憲主義、民主主義を貫く新しい政治、すべての国民の個人の尊厳を守り、大切にする社会の実現をめざして全力をあげる決意を表明して、私の質問を終わります。