2016年1月18日(月)
安倍明文改憲発言
緊急事態条項を突破口に
戦争法で憲法との矛盾極限
安倍晋三首相が年頭会見(4日)以来、憲法の条文そのものを変える明文改憲に強い執念を示し続けています。自民党改憲草案(「日本国憲法改正草案」)にある「緊急事態条項」の創設などを、夏の参院選の争点にする構えです。
「改憲を考えている、未来に向かって責任感の強い人たちと3分の2を構成していきたい」。安倍首相は10日放送のNHK番組・党首インタビューで、参院選で自民、公明両党のほか、おおさか維新の会など改憲に賛同する勢力で改憲発議に必要な3分の2の議席確保を目指す意向を示しました。
突破への衝動
さらに12日の衆院予算委員会では「当然、来るべき選挙でも政権構想の中で憲法改正を示す」と踏み込みました。15日の参院予算委員会では「緊急時に国民の安全を守るため、国家、国民がどのような役割を果たすか、それを憲法にどう位置づけるか、極めて重く大切な課題だ」と述べ、「緊急事態条項」の創設を明文改憲の突破口に位置づける考えを示しました。
海外での武力行使を可能にする戦争法を強行した安倍政権にとって、憲法9条との矛盾は極限まで拡大しています。安倍首相の一連の発言の根本には、その矛盾を突破するための衝動があります。
世論との矛盾
戦争法強行後、自民党内から「国民はモチを食えば忘れる」という声が出されていましたが、異例の1月4日召集となった今通常国会の初日には国会前に3800人もの市民が集まり、「モチ食って怒り増す」などのプラカードが掲げられました。世論調査でも依然として戦争法(安保法制)「反対」が過半数を占め、憲法学者らの「違憲」の指摘も続いています。「安保法制廃止と立憲主義の回復を求める市民連合」をはじめ、参院選での野党共闘で戦争法・改憲推進勢力を少数派に突き落とすたたかいは、全国に広がりつつあります。
戦争法は「従来の政府解釈の範囲内」とされており、地球規模での米軍との協力を進めるとはいえ、9条2項との深い矛盾と制約を抱えています。例えば、PKO(国連平和維持活動)の任務拡大で実施される可能性のある「駆けつけ警護」は、紛争地域の流動的な情勢のもとで9条の禁じる武力行使となる危険をはらみ、誤射で市民を殺傷した場合の責任など不明確な要因を抱えます。
政府内や安全保障の専門家から「米側は何でもできると見ているのに対し、日本としてはまだまだ制約が多いという認識のギャップがある」との指摘もあります。
戦前の「戒厳令」などに見られるように、戦争を現実に遂行するには国内の治安統制を強めることが必要です。外部からの武力攻撃を「緊急事態」として、首相に権限を集中し、国民の人権を停止する「緊急事態条項」が浮上しているのも、国民の批判を押さえつけるためです。(中祖寅一)