2016年1月15日(金)
きょうの潮流
2歳の息子は消防車が大好きです。以前近所の消防署で本物を見せてもらったのが、きっかけのようです。火事という緊急事態に駆けつける姿が、かっこいいのかもしれません▼安倍首相が「緊急事態条項」新設をテーマにした明文改憲を狙っています。緊急事態というものの、自民党改憲草案(2012年)は、事例の第一に有事をあげています。戦時に国民の権利を押さえつける独裁体制づくりの一環です▼日本国憲法は戦争を放棄し、戦力も持たないと決めました。吉田内閣の憲法担当大臣で、現憲法の「産婆役」とも呼ばれた金森徳次郎氏は、この憲法の平和主義を「世界に誇るべき」といいました。「正しいことを行うのに、ひとより先に着手すれば損をするという考え方をもつならば、永久にその正しいことは実現されない」▼終戦直後の憲法制定議会では、当時の政府の立場から緊急事態条項は不要と論陣を張りました。「国民の意思をある期間有力に無視し得る制度」であり、「ないことが望ましい」と▼緊急事態を心配するなら、原発こそ真剣に議論すべきだというのは憲法学者の長谷部恭男・早大教授です。再び大事故が起きれば「日本は再起不能になってしまう」「原発を維持したままにしておくほうが、よほど国家の存立を脅かす」(『世界』1月号)。もっともな議論です▼だれもが心配する「緊急事態」という言葉をもてあそんで国民を脅し、事実上の「戒厳令」復活をねらう。中身もやり方も憲法無視の暴走そのものです。