2016年1月10日(日)
きょうの潮流
約束や契約などをなかったことにすることを「反故(ほご)にする」といいます。鹿児島県にある川内原発で、九州電力が事故時の対応拠点となる免震重要棟の新設計画を撤回したことです▼新設は原子力規制委員会の審査で議論され、規制委の新規制基準に「適合した」とされた審査書に「免震重要棟の設置」が書き込まれました。ところが、九電は川内原発を再稼働させるや、つなぎの施設である代替施設が「基準を満足」しているなどといって、計画を撤回したのです▼代替施設が1階建てで収容人数が100人なのに対し、免震重要棟は3階建てで3交代を考えて300人収容し、事故時の指揮所の広さは3倍以上に。緊急時の対応にあたる作業員の被ばくをより減らす計画でした▼この施設が多くの人に知られたのは、東京電力福島第1原発事故の対応拠点となったからです。当時の東電社長が事故後に「もしあれ(免震重要棟)がなかったらと思いますと、ぞっとする」と証言しているくらいです▼審査の記録を読むと、九電も免震重要棟の新設は「福島の事故の教訓を受けて」と規制委に説明していました。今となっては、これは方便でしかなかったのか。反故にされた規制委の対応も問われています▼山積した問題を残したまま川内原発の再稼働にお墨付きを与えました。最近は、東電柏崎刈羽原発などで発覚したケーブル敷設違反で、川内原発と再稼働の準備が進む関西電力の高浜原発を調査対象外にするなど、首を傾(かし)げることが多いからです。