2016年1月1日(金)
新春対談
上智大学教授 中野晃一さん 新たなうねり 今年も続く
日本共産党委員長 志位和夫さん 政治の変革につなげたい
日本で初の市民革命的な動き
「立憲デモクラシーの会」の中心メンバーとして戦争法反対、立憲主義回復の市民運動の先頭に立ってきた上智大学教授の中野晃一さん。「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」の提唱者であり、その実現の先頭に立つ日本共産党の志位和夫委員長――。政党と市民グループのキーマンである両氏が、新たな国民運動や今年のたたかいの展望まで縦横に語り合いました。
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志位 あけまして、おめでとうございます。
中野 おめでとうございます。
昨年を振り返ってみて、国家権力の暴走が行くところまで行ってしまった年だったと思います。同時に、それに抵抗していく市民社会の動きや、共産党も含む野党の動きが希望をみせた。その萌芽を感じさせたということも、記憶されるべきことだと思います。
とりわけ、国会前での(戦争法案廃案の)抗議のなかで、多くの市民が本当にいろんな多様な背景から現れて、そこで生まれてきたうねりが新年でも続いていくことを確信させる新しい展開があったと思っています。
志位 昨年は、戦後最悪の安倍政権が、戦争法=安保法という憲法違反の、戦後最悪の法律を強行したという点で、まさに日本の歴史に大きな汚点を刻んだ年になったと思いますが、同時に、たいへん大きな希望が見えてきた年となったと思っています。
一言でいうと、日本国民の新たな歩みが始まった年となったのではないか。戦争法に反対するたたかいは、一人ひとりが主権者として、自分の頭で考え、自分の言葉で語り、自分の足で行動する、自由で自発的な行動がおこったという点で、戦後かつてない新しい国民運動といえると思います。もっと言えば、日本の歴史でも初めての市民革命的な動きが開始されたといっていい。そういう市民社会の動き、国民運動の動きを、いかに政治の変革につなげていくかが、今年の課題になってくると思っています。
中野 本当におっしゃるとおりです。国会終盤で危機的な状況になってきたときに、自発的にどこからともなく「野党は共闘」「野党はがんばれ」というコールが繰り返されていたというのは、市民運動のあり方としても非常に新しい動きだと思うんですね。ゆがんだ選挙制度で、私たちの代表者が数ではいまのところ負けているけれども、国会のなかでがんばってくれる。それを後押ししようという動きがおのずと出てきた。非常に驚きでもありましたし、運動が新しい局面に入っていることを感じさせるものがありましたね。
志位 昨年9月に「シールズ」のみなさんと「学者の会」のみなさんが共同して開いた新宿・歩行者天国での集会に私も呼ばれまして、そこで話したんですが、戦後つくられた日本国憲法の平和、民主主義の理念が、深く国民のなかに定着し、豊かに広がって、それが表に出始めたなという感じがしますね。
戦後の改革は、もちろん国民のなかに民主化を求める世論や運動がわきおこり、日本共産党もその一翼を担ったわけですが、マッカーサー司令部の“上からの変革”という側面が強かったわけですね。しかし、そのなかでつくられた日本国憲法は、当時の国民が希求した内容とも合致していたし、世界の大勢とも合致していた。その日本国憲法の平和の理念、民主主義の理念が、70年間かかって国民の中にずーっと浸透して豊かに力を発揮しだしたという感じがしますね。そういう点で、市民革命的な動きといえるんじゃないかなと考えています。
専門知識と個人の勇気が出会った 中野さん
戦争法廃止・国民のたたかい
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中野 新宿の歩行者天国での集会では、志位さんに対して「カズオ!」(笑い)というような、ロックスター並みの声援が飛びました(笑い)。非常にフラット(対等)な関係ができてきている。「私たちの声を届けたい」「そのために私たちの代表にがんばってもらいたい」という、素朴な意味での代表、私たちの代わりに表してくれるということが、国会議員に対する声援となっていったと思います。
また、繁華街で休日の昼間に多くの人が集まって、それも色とりどりのプラカードを掲げ、年齢や男女にしてみても多様です。市民革命との関連でいうと、主権者意識という非常に強いものがあります。「自分たちの政治だから自分たちで担う」「自分たちの代表だから自分たちで声を上げる、後押しをする」と。自分たちで出かけていって、「あなたたちも主権者なんだ」「いっしょに日本国憲法、立憲主義を守ろう、平和を守ろう」という思いが形になって見えたのは、非常に感銘を受けるところがありましたね。
志位 昨年末なんですが、「ティーンズソウル・ウエスト」という大阪での高校生のみなさんの集会に行く機会がありました。「カズオ、キター!」っていうんですね(笑い)。本当にそういわれているのかなあと思って(笑い)。私たち政党が、市民運動のみなさんと同じ目線に立ち、対等な関係で、いっしょに進もうという姿勢をしっかり貫くということが大事だと思いますね。
それと、いま中野さんがいわれた運動の内容を私なりに整理してみますと、一つは、「総がかり行動実行委員会」という統一戦線の組織が生まれたのは、画期的なことです。高田健さんを中心とする市民運動をずっとやってこられた方々、それから、全労連の小田川(義和議長)さんを中心とする方々、それから平和フォーラムの福山(真劫)さんを中心とする方々が、これまではバラバラにやってきたが、それをのりこえて協力しようということで、統一戦線の組織が見事につくられた。ものすごく息が合っているんですね、このお三方は。ここで画期的な共闘関係がつくられた。中野さんが(戦争法反対のたたかいの例えであげられた)いわれる「敷布団」ですね。(笑い)
二つ目に、知識人が果たした役割は、歴史的なものだと思っています。とくに憲法学者の方々がみんな声を上げた。95%の憲法学者が違憲だと声を上げた。とくに昨年6月はじめの国会で、3人の憲法学者が「(安保法案は)違憲だ」と発言されたことが潮目を変えた。さらに、内閣法制局長官を務められた方々が、そろって「憲法違反」だといい出す。最高裁元長官、元判事の方々も「憲法違反」と。日本弁護士連合会のみなさんは、一貫して「違憲」と論陣を張り、運動の先頭に立ちました。“専門家の知的共同体”が、「違憲」という烙印(らくいん)を押した。これは、非常に大きな意義があることで、こんなことは戦後なかったことです。
中野 本当にそうですね。
志位 この方々が示した勇気と理性は、決定的に大きかった。さらに、三つ目に、「シールズ」、「学者の会」、「ママの会」と、主権者として自覚した方々が個人として連携し、声を上げた。これは(中野さんの言葉を借りれば)「掛け布団」ですね。うまいことをいうなと思って。(笑い)
そういう三つの流れがおこって、合流し、一大潮流になっている。これはこれまでの日本の歴史にはなかったことです。そういうふうに始まった運動というのは、戦争法強行によって止まることは決してない。むしろ強行を新たな出発点にして、廃止を求める運動に発展していっている。これは必然だと思います。
中野 私が学者の端くれとして運動に携わり、目の当たりにして非常に感動的だったのは、憲法学の先生方が、国会前などで声を上げられていた方たちに勇気をもらっているという姿でした。自分の生涯をかけて学問に誠実さをもって接してきて、図書館や研究室にこもって学問をやってきた人が、「このとき立たなければ何のために憲法を学んでいるのか」と街頭に立たれた。そして普通の市井の方たちが大挙してこられていて、自分たちの言葉に耳を傾けてくれた。そうした体験を通じて、憲法学者の方たちは大きく変わっていったと思うんですね。
樋口陽一先生(東京大学・東北大学名誉教授)は「専門知と市民知が出会った」という表現をされていましたが、まさに“自分たちは専門知識しかもっていない。しかし、それでも個々人の勇気で声を上げたら、また同じように個々人の勇気をもって「市民知」を体現する人たちに出会うことができた”ということで、その二つが合わさった。その場を提供したのは、やっぱり「総がかり行動」であり、「シールズ」だったんだと思うんですね。
志位 「シールズ」の集会に、大学教授のみなさんが次々と登場して訴えました。その訴えを聞いていますと、若者の運動に激励されて、研究室から飛び出してきたと。若いみなさんの運動に敬意と感謝をもちながら、憲法学にしても、政治学にしても、一流の研究者の方々が国会前で次々にスピーチする。いわれるような、二つの知性が合流した姿を目の当たりにして、胸が熱くなる思いでした。
「国民連合政府」の提唱
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志位 そういうなかで私たちは、昨年9月19日に「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」の提案を発表しました。実感的にいいますと、国民のみなさんのたたかいのなかに私たち自身も飛び込んで、耳を澄ましてその声を聞き、その熱気を私たちも体感して、そういうなかから必然的に「これしかない」と思って、この「提案」を出したんです。国民のみなさんの運動のなかから、必然性をもって出てきたものだと。これはぜひ実らせたいと思っているんです。
中野 私も、いっしょに夏の間の抗議の声を上げてきて、お互いいっしょに走ってきた政党である共産党から、こうした呼びかけが出てきたということは、それまでの流れからすると、当然のことだったと思いますし、多くの人たちの期待に応えるものだったと思うんですね。
われわれ市民社会の側では、これまでのいろんな経緯、細かな意見の違いは乗り越えて、立憲主義を壊す、民主主義を冒涜(ぼうとく)する、平和を壊すようなことは許してはいけないと、お互いの違いを認め、尊重しながら、手を結んできたわけです。当然、プロの政治家である議員、政党には、同じように私たちの声をくみとって、違いを認めつつ、ともにたたかうということを示してもらいたいという思いが強かった。ですから、(安保法強行の)あのタイミングですぐ動けたというのは、やはり共産党がいっしょに走ってきた流れがあると非常に強く感じました。
志位 ある意味では、市民社会の運動のほうが先行しているんですね。市民社会のほうは、立場の違いを超えて、広く手を取り合って共同の大きな場をつくっている。それにふさわしく政党の側も対応しないといけない。
政党、野党の側は、その力に背中を押されて、通常国会では最後まで戦争法案阻止で共闘することができたわけですけれども、次のステップに野党が進めるかどうかが問われています。市民社会のほうが実際にやったことを、野党にできないわけはないということだと思うんですね。それに応えられなかったら、野党としての責任を果たしたことにならない。それぞれの野党が問われると思います。
中野 さきほど志位さんがおっしゃったように、三つの異なる流れがいっしょになってやってきているわけです。そして新年の運動のあり方としても、参議院選挙を念頭において、戦争法廃止を求める2000万署名を実現しよう、野党共闘を前提とした動きとなっているわけですから。それを実現できないということになると、それはやはり市民社会に対しての裏切りになると思います。
志位 そうです。野党としての存在意義が問われることになる。国民の期待に応えるような前向きの流れをなんとかつくりたい。いろいろと困難もあり、苦労もしていますが、野党共闘の動きを広げて、選挙に勝ち、安倍政権を倒して、新しい政府をつくるという目標に向かって、今年は大きく前進する年にしたいと思います。
深い根をもった流れ
志位 国民のたたかいを、若干長い視野で見てみたいんですね。いろいろと世界で起こっている動きをみますと、たとえばアメリカ大統領選挙の民主党予備選挙で「最左派」といわれるバーニー・サンダース氏が善戦しています。
サンダース氏は、バーモント州選出の上院議員です。私は、2010年に国連本部で開かれたNPT(核不拡散条約)再検討会議に参加するため訪米したさい、バーモント州議会を訪問したんです。「核兵器禁止条約の交渉開始を求める決議」が州の上下両院であがっており、これは日本の運動が求めていたことと同じ内容でしたから。州議会あげての温かい歓迎を受けました。バーモントはアメリカの州のなかでもっとも進歩的な州の一つだと思いますが、イラク戦争反対決議を議会であげていますし、ブッシュ大統領立ち入り禁止決議というのを(笑い)あげているんですよ。面白いですよね。
中野 面白いですね。
志位 そういうところから出てきた方ということもあるんでしょうけれど、サンダース氏は民主的社会主義者を自称している方です。それがああいう大善戦をしている。どこに根っこがあるかといったら、2011年に「オキュパイ(占拠)」運動――ウォール街の「占拠」運動ということがあって、それが根になって、また伏流として続き、それからちょっと時間差はあるんですけれど、そういう形で表れたといわれています。
それから、イギリス労働党の党首選挙でのジェレミー・コービン氏の圧勝も、びっくりする動きでした。コービン氏は「最左派」と言われる方で、「反緊縮」――新自由主義に反対する政策を掲げている。これもどこに根っこがあるかといったら、イラク戦争に反対するたたかいにある。ロンドンで200万人の大デモンストレーションが起こった。そうした市民運動のうねりが、これも時間差はありますが、コービン圧勝につながったといわれています。
私は、いまの日本で起こっているのは市民革命的な動きの始まりだといったんですが、この動きというのは、とても深い根をもった流れになっています。それが、どういう形で政治に表れるか。もちろん、私たちは直面する参議院選挙や総選挙で、それが政治の変化となって表れるように最大限の努力をしていきたいと決意していますが、その帰すうがどうなるにせよ、昨年開始された国民の新しい歩みは、かならず新しい政治を生み出す力として表れてくると考えています。
中野 私もまったく同じふうに考えていて、参議院選挙というのはもちろん非常に厳しい状況でのスタートになると思うんです。野党共闘というのは、そのスタート地点に立つ話であって、より多くの有権者が投票に足を運ぶような大きな対決構図というのを明らかにしていくということができないと、野党共闘だけでも難しい。しかし、その野党共闘さえまだ形がきちんと整っていないということでいくと、相当厳しいことにならざるをえないと思うんですね。
ただ、野党5党と国会前で反対してきた市民団体有志との意見交換会が昨年のうち何回か行われたなかで申し上げたんですけれども、「野党がきちんと共闘できないというようなことであっても、私たち市民社会の動きというのは止まらない」「しかし、いまある政党や政治家のみなさんはいなくなっちゃうかもしれない。その先でもまだまだわれわれはたたかい続けるということになっている」と。それをきちんと政治家としての責務を果たすことができるのかどうか。それをわれわれは見ているということだと思うんですね。
主権者である国民が、自分たちで考えて、自分たちがこうするんだというふうに動きだしたというのは、やがてその代表を代えていくという形で出てくることにはなると思います。日本でも、そういう地殻変動が起きているのが今の状況で、それにどれだけ敏感に野党が呼応していくことができるのかが、今年問われていくことになるんじゃないかと思います。
この国民の歩みが新しい政治生む 志位さん
立憲主義と個人の尊厳
中野 国会前での抗議や、そこで表れた市民社会の変化を、たんに「守るもの」ととらえたら大きな誤りだと思うんですね。むしろ、国会前での抗議などで出てきたのは、主権者として、今後も立憲主義、日本国憲法の中にある平和への思いというものを守り、育んでいくという姿勢が出てきた。私自身は、これまで単に「憲法9条を守る」と来たものが、むしろ「守り育てていく」となってきたと思います。それは沖縄・米軍新基地建設問題とか、日米関係のあり方とかも、もっと活発に考えて、いかにして憲法9条の精神をより十全なものに実現していけるのかというところまで、発想方法がそもそも変わってきていると思うんですね。
志位 「シールズ」のみなさんのスピーチを聞いていると、「安倍さんはいずれはいなくなる。そのあとも自分たちがこの日本を背負っていかなきゃならない」ということをいわれますよね。当たり前のことなんですけど。(笑い)
何十年も先まで見通して、立憲主義、民主主義、平和主義が本当に貫かれる社会をつくろうと。そしてそういう流れの中で、「個人の尊厳」ということがとても大事なキーワードとして出てきたというのは本当に重要だと思います。
立憲主義の回復という課題が、国民の一人ひとりにとってどういう意味をもつか。安倍政権の政治の特徴を一言で言うと、「国家の暴走で個人の尊厳を踏みつぶす政治」といえると思います。戦争法しかり、沖縄しかり、原発しかり、TPP(環太平洋連携協定)しかり、消費税や経済の問題しかり。すべてにそれが表れている。「1億総活躍社会」「たくさん産んで国家に貢献」というフレーズにも表れている。要は、「国家のために働け」「お国のために子どもを産め」ということでしょう。ここでは、国家と個人の関係が逆立ちしている。国家のために個人があるのではなくて、個人の幸福のためにこそ国家がある、という関係だと思うんですね。
憲法13条には「すべて国民は、個人として尊重される」とある。ここには憲法の核心となる理念が凝縮されています。憲法学者で東大名誉教授の樋口陽一さんが、「近代立憲主義にとって、権力制限の究極の目的は、社会の構成員を個人として尊重することにほかならない」といわれている。その通りだと思います。
中野 そうですね。
志位 憲法の国民主権、基本的人権、平和主義という大原則がなんのためにあるかといったら、究極的には、すべての国民をあるがままの多様な人格を持った個人として尊重する――「個人の尊厳」を守り、大切にするためにあるわけです。立憲主義を回復するということは、「個人の尊厳」を守り、大切にする社会をつくるということになる、そういう社会をみんなで力をあわせてつくろう、と最近訴えているんですが、とても反応が強いです。やはり、みんなそう実感しているんだと思います。
中野 そうなんですね。
志位 「個人の尊厳」が踏みつけにされているとみんな実感している。派遣労働では、「個人の尊厳」どころか、モノのように使い捨てにされている。沖縄では、平和的に生存する権利そのものが侵害されている。「個人の尊厳」を大きく掲げるということによって、立憲主義の回復という課題の、豊かなイメージが広がってくると思います。これは、平和の問題だけではなくて、民主主義の問題、暮らしの問題、すべての問題に深くつながってくる。いまそういう訴えが大事かなと思っています。
中野 安倍政権のように、次から次へとむちゃくちゃなことを仕掛けてくることに対して、一つひとつ反対していくことはもちろん大事なんですけれども、それだと後手後手に対応するだけになってしまって、あまり状況がよく伝わっていない人から見れば、「なんでこの人たちは何でも政府のやることに反対しているんだろう」というふうに誤解されかねないわけですよね。
それに対して、「いやいや、反対しているのは違った政治のあり方、違った暮らしのあり方を考えているんだ。そちらが大事だと思っているから反対しているんだ」というのは、ポジティブ(積極的)なメッセージです。どういう政治があるべき姿なのか、「個人の尊厳」を守るのがそもそも政治の役割ではないのか、と発信していくことが非常に重要だと思いますし、これまで届きにくかったところまで声が届いていくことになると私も期待しているところなんです。
安倍政権は、目に見えて女性の支持率が低い。ここには、「個人の尊厳」の問題が象徴的に表れていると思うんです。どうしても男性中心社会の中で、往々にして人格、尊厳をないがしろにされることが多い女性が、とりわけ安倍政治の手法からその中身に対して敏感に反応していると思います。やはり一人ひとりの人間が個として尊重される、まっとうな暮らしができるということは、立憲主義に支えられて尊厳のある、自由な暮らしができるような社会と経済を構築していきたいという願いなのではないかと思います。
志位 安倍政権の支持率もそうですが、女性は戦争法=安保法の批判も強いですよね。いま女性は相対的に弱い立場におかれているがゆえに、権力の暴走による「個人の尊厳」の侵害に対して、やむにやまれぬ気持ちで声を上げる――強い声を上げているということではないでしょうか。
「シールズ」の集会で女子学生が「空気は読むものではなく変えるものだ」とスピーチしましたが、名言だなと思って。ノーベル物理学賞を受賞された益川敏英さんと「国民連合政府提案」で懇談した際、その話をしましたらのけぞって、「それはいいなあ」(笑い)と。ノーベル賞学者の益川さんものけぞるぐらい(笑い)、生きた言葉ですね。
中野 本当ですね。
志位 「ママの会」の「だれの子どももころさせない」というのもとても心に響きます。お互い男性ですから男性がダメというわけではありませんが(笑い)、女性は、より敏感にいまの危機に対して声を上げている。女性の方々がこれだけ多く参加していることは、すごく大きな未来をもつ運動だということを示していると思っています。
科学的社会主義の立場
志位 それから、私たち日本共産党が「個人の尊厳」を主張することの意味あいを一言いいますと、共産党というと「全体主義」とか「個人否定の集団主義」とか誤解を受けている面があるんですが、決してそうではない。
「個人の尊厳」「個人の尊重」というのは、近代民主主義の最も中核的な概念の一つですが、それをマルクスはまっすぐに引き継いで豊かにしています。たとえばマルクスが人間解放のもっとも中心的な問題として位置づけたのは、「すべての個人(人間)の自由で全面的な発展」ということです。それは労働時間の短縮によって可能になってくる。単位は個人なんですね。
中野 そうですね。
志位 科学的社会主義が目標とする未来社会というのは、すべての個人が徹底的に尊重される社会ということにもなります。
マルクスは、1857〜58年に書いた『資本論』の最初の草稿『経済学批判要綱』のなかで、「個人」「個性」の発展という見地から、人類史を三つの段階に概括して、描きだしています。
第1段階は、「人格的な依存諸関係」の段階。原始共同体、奴隷制、封建制までの段階です。ここでは個人は共同体の中に埋没しているか、人格的な隷属のもとにおかれている。社会全体としては、独立した個人、個性ということは、問題になりません。
第2段階は、「物象的依存性のうえにきずかれた人格的独立性」の段階。資本主義社会のことです。ここでは、人格的独立が社会全体の規模で現実のものとなり、個性を広く発展させる条件が生まれます。同時に、労働者は資本との関係で物質的・経済的な従属のもとにおかれます。この段階で、「個人の尊厳」が初めて社会の原理とされるのですが、しかし、この「尊厳」は搾取によって侵害されている。
第3段階は、「個人の普遍的な発展のうえにきずかれた自由な共同体」の段階。社会主義・共産主義社会です。この段階では、独立した人格をもった豊かな個性が、これまでの枷(かせ)がとりはらわれ、何の束縛もなく花開く。
あらためてマルクスを読み直してみると、科学的社会主義の理論のなかに、近代民主主義の「個人の尊厳」「個人の尊重」というものが、発展的に継承され、きわめて豊かに展開されている。ですから「個人の尊厳」という場合に、科学的社会主義の立場からいっても、まさに強調すべき一つの中心点がここにあると考えています。
中野 私自身も、もともと「リベラル左派連合」という言い方をしてきたんです。自由主義の潮流と社会主義の接点として、同じではないけれども一緒に連帯できる部分として「個人の尊厳」という非常に大きな目標、その実現はあると思っていますので、そういうふうに受け止めていただいているというのは非常にうれしく思います。同時に、私の身の回りでも、ある程度の世代以上になってくると「共産党・共産主義」と聞くと旧ソ連のことを思って、“志位さんが「個人の尊厳」といっている”と言うと、けっこうどよめきが(笑い)あります。
そういう意味でも、「個人の尊厳」をおっしゃってくださるということは、向かっている方向が十分野党の共闘の土台としてできているんだということです。これまでの国会審議の場でも、労働法制とかさまざまな問題で全く同じ立場ではないけれども、「これはおかしいだろう」「こっちの方向に持っていくべきだろう」というような共闘というのは、しばしばできてきているわけですから、政策の細部はともかくとして、方向性としてこっちの方を向いていきたいというような点では、多くの野党とこの点でも共通の地盤ができるのではないかと思っています。
志位 そうですね。立憲主義の究極の目的が「個人の尊厳」を守ることだということに論理的になる以上、そういう方向に発展していくことが可能だと思います。野党共闘も「立憲主義を守ろう」という点では一致になるわけですから、それをどう各分野の政策に具体化していくか、政策的一致点を探っていくかということも、「個人の尊厳」という考え方をキーワードにして、いろいろと話し合っていけば、「戦争法=安保法、立憲主義の回復」という大命題以外でも前向きの一致がつくりうるんじゃないかと思っているんです。
野党共闘をどうすすめるか
志位 「国民連合政府」の問題ですが、政党間の話し合いは、私たちなりに誠意をもって努力してきました。社民党と生活の党は、私たちの「提案」の方向でおおむね賛同をいただいています。民主党とはいろいろなレベルで話し合いをやっていますが、率直に現状を言いますと、今のところはまだ「戦争法=安保法の廃止、立憲主義の回復」という政治的合意も、そのための政府をつくるという政権合意も、選挙協力の協議に入るという合意も、つくられていません。
しかし、私たちは、誠意をもって、焦らず、粘り強く、話し合いを続け、野党共闘の合意の実現のために知恵と力をつくしたい。一緒にたたかってきた方々からは、「野党は共闘」という圧倒的な声が上がっていますが、ぜひ、そういう声をもっと広げてほしい。そして、戦争法廃止の2000万署名を、今年5月3日の憲法記念日めざして掛け値なしに集めきって、平和の巨大な流れをつくる。そういうなかで、前向きの一致点を見いだして、選挙に勝ち、次のステップを開きたいと思っているところです。
中野 われわれ市民社会の側でも、極力できることをやって野党共闘を後押しして、立憲主義を中核にすえた、個人の尊厳を擁護する政治を回復することができるようにがんばっていきたいと考えています。
志位 とても心強いです。本当にいろいろな方々がそういう形で後押ししていただくことがどうしても必要だと感じています。
参院選では、全国32の1人区での共闘が大事になってきますが、本気で選挙に勝とうと思ったら、真剣な協議としっかりした合意が必要です。そして、互いに全力で応援する、全力投球のたたかい方をしないと、これは勝てません。一昨年の総選挙で「オール沖縄」でたたかったような相互にしっかり応援するという選挙協力でないと、自公を相手に勝つというのは容易ではない。
さいわいに熊本選挙区(1人区)は、とても良い形で、全国初の野党統一候補の擁立となりました。市民団体50団体のみなさんが、県内の野党5党、連合、県労連に、野党統一候補の擁立を要請し、話し合いがまとまり、弁護士の阿部広美さんが統一候補として出馬表明されました。気持ちのいい共闘の体制ができたと思います。確認事項は、(1)集団的自衛権の行使容認の閣議決定の撤回(2)11の安保関連法の廃止(3)日本の政治に「立憲主義と民主主義を取り戻す」――という3点で、大義ある共闘となっています。
こういう筋の通った、みんなの力が一番発揮できるような形での共闘を粘り強く広げていきたい。同時に政党間の協議をやりませんと全国的規模での本格的共闘はできません。私たちはいつでも話し合いの用意があると表明していますが、前に進むように努力したいと考えています。
中野 もちろん異なる政党がいろんなことをすり合わせていかなければいけない、そして選挙区にはそれぞれの地域事情があったりすることも踏まえていかなければいけない。そういうなかで、時間がある程度かかることは、われわれも承知しているわけですけれども、熊本のような形をできるだけ早く全国に広げていきたいですね。非常に期待もしていますし、これからも要望していきたいと思っています。
去年12月20日に結成した「市民連合」の趣旨としては、安保関連法の廃止、集団的自衛権行使容認の閣議決定の撤回を含む立憲主義の回復、そして個人の尊厳を守る政治を実現すると、これを三つの大きな理念として、このために野党共闘を後押しして、きちんとした対決構図でもって、投票率が目に見えて上がる、そういう参院選になるよう、バックアップをしていきたいと考えています。その中で各地域の市民の動きと連携をして、また、いろんな団体からの賛助を得て、できるだけそうした野党の模索を後押ししたいということです。
芽吹く新緑、新しい木に育てたい 中野さん
日本政治の歴史的転換となる年に 志位さん
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志位 私たちは大歓迎です。みなさんのそういう痛切な思い、期待に応えないといけないと決意しています。
「市民連合」の方針には、「参議院選挙における1人区(32選挙区)すべてにおいて、野党が協議・調整によって候補者を1人に絞りこむことを要請する」とあります。ここが大事なところだと考えています。よく「共産党が候補者を降ろすのかどうか」ということが言われますが、それぞれの政党は、それぞれの立場があって候補者を擁立しているわけですから、候補者を1人に絞りこむという調整は、政党間での真剣な協議ときちんとした合意がどうしても必要になります。
「安倍1強」をどうみるか
志位 われわれの相手になる安倍政権は、よく「安倍1強」と言われるんですが、私は「1強」じゃないと思う、「強」ではない、決して「強く」ない。
去年は、自民党の結党60年ということで調べてみたのですが、自民党の結党直後の総選挙は1958年で、この時の選挙制度は中選挙区制でしたが、自民党の絶対得票率は44%でした。直近の総選挙での絶対得票率は17%ですから、3分の1近くまで落ちている。ひとえに小選挙区制による「少数独裁」であって、国民的にみれば、決して強固な基盤があるわけではありません。
それにくわえて主要政策がことごとく国民的には少数派なんです。戦争法・安保法しかり、原発の再稼働しかり、沖縄の新基地建設しかり、TPPしかり、そして消費税の大増税しかり、みんな少数派ですよ。ですから、国民的にみれば強固な基盤を持っているわけでもなんでもない。
さらに、安倍政権になって、自民党はウルトラ右翼=極右政党化した。政治の幅が極端に狭くなってしまった。かつての自民党がもっていた、保守政党としての一定の寛容さとか、多様さとか、そういったある種のゆとりが失われてしまって、灰色の単色政党=モノクロ政党になってしまった。これは強いようだけど、もろいですよ。国民の運動を広げ、野党が結束すれば、必ず倒せます。
それから、安倍首相ご本人とも、論戦をしてきましたが、まともな議論にならないのです。私は、1990年代に国会議員になりまして、当時の橋本龍太郎(首相)さんとか、自民党幹事長の加藤紘一さんとか、こういう方々との論戦を随分やりました。あの時代の論戦は、まともな議論の面白さがありました。私たちの投げかけた問題に対して、かみ合わせて自民党なりの議論をぶつけてきた。かみ合いがあった。ところが、安倍さんは、かみ合わせて議論する能力がない。かみ合わすという資質がない。かみ合わせようという意思もない(笑い)。そういう意味で、「強いリーダー」でもなんでもない。そこら辺を見定めておくというのは大事だと思うのです。
中野 私も同じ状況分析です。言ってみれば焼け野原みたいになってしまった政党システムの中にかろうじて、ただ一本だけ木が残っていると言えば残っている状態です。だから、「1強多弱」と言われるようになっているだけの話であって、本質的な強さというのはないんだと思うんですね。
ただ、それに代わる政党ないし政党集団というのがない限りにおいては、もっと言えば野党共闘という形ができない限りにおいては、何度選挙をやっても低投票率で選挙制度のマジックによって信任を得たという形式的な見かけができてしまうという状況にある。しかも、それを安倍政権は熟知しているという、そこまでシニカル(冷笑的)な政治の動きになっているんだと思います。
われわれは、それに対していかにして立ち向かっていくのか。正確に現状を分析して、けっしてこんな状況しかありえないわけでないということを踏まえた上で、いかにして戦略的にこの状況を変えていくのかというところに議論がすすんでいかなければいけないと思います。
志位 そのとおりですね。野党がバラバラのままでは安倍政権を助けるということになる。野党が結束して本格的な「受け皿」が見えてきた場合――安倍政権にかわる政権の構想が見えてきた場合には、状況はがらりと変わると思っています。それは野党次第だと考えて対応しなくてはいけないと思います。
メッセージの伝え方
中野 私もその連立政権しか道はないと思います。同時に、連立政権、場合によっては選挙協力に関しても抵抗したり、反対する側が常に言及するのが、「共産党アレルギー」という亡霊です。それについてどう考えるのか、それをどう対処するのかという問題があると思うんです。
共産党のいまの姿勢とか考え方が、かつての旧ソ連などのイメージであったりということで、いろいろと誤解を受けていたりして、一定層に「共産党アレルギー」というものがあって、それが障壁となっているとするならば、共産党としてそれをどう乗り越えるのか。その正体はいったい何なのかということを、まず見るところから始めなくてはいけない面もあるんだろうと思います。
一つ例を申し上げます。「シールズ」のみなさんと、「リデモス」(ReDEMOS)というシンクタンクを一緒につくろうということで協力をしたのですが、どういう理念にするのか非常に議論するのですが、そのあとに、ではどうやってビジュアル化するのか、どうやってメッセージを伝えるのかということを、理念や声明をつくるのと同じぐらいの時間をかけて、徹夜作業並みのことをやるのです。それを見て、ある意味あぜんとしたというか、非常に驚いたんですね。
私自身も「立憲デモクラシーの会」であるとか「学者の会」とかにかかわって、声明をつくろうとガヤガヤやってできたが、じゃあ記者会見だといって、その見せ方については何も考えていないわけです。おそらく自分たちは正しいメッセージをもっているから、それは伝わるだろうという、ある種のおごりもあるんだと思います。それにたいして、彼らは、自分たちの声なんて聞いてくれるのだろうかというところから出発して、どう伝えるかを考えている。
もう一つは、伝えたい相手にたいする敬意、若者の言葉でいうとリスペクトだと思うのですが、それがやっぱりわれわれに欠けていたものだなと思ったのです。「シールズ」の場合ですと、主権者が主権者に語りかけるというフラット(対等)な運動であったがために、自分も考えて動いているから、あんたたちも考えて動いてくれと、まあ違いはあるのかもしれない、だったら議論しようという、そういう姿勢なわけですよね。
われわれ大学の教員と共産党というのは似ていて、同じようにうっとうしいように思われている(笑い)。常に正しい答えを知っていて説教しているようなところが、たぶんあるんだと思うんですね。そういう意味では、自戒も込めて申し上げているんですけども、いかに見られているのか、どのように受け止められているのか、どうすると伝えたい相手に対してよりリスペクトがこもった、メッセージの伝え方ができるのか、というようなことについて、共産党のみなさんにもぜひ取り組んでいただきたい。本来でいえば、共産党はもっと、支持されていないとおかしい状況にあるわけです。もちろん、近年の選挙では票も議席も伸びてきて、それは素晴らしいと思うんですけれど、まだもっといけるはずだというところがあるとするならば、それはメッセージの伝え方について、もっと謙虚にあるべきではないかと。すでにいろいろ努力をされていることは、十分承知のうえで、新年はさらに力を傾注していただけたらと、いうふうに考えています。
志位 それは、おっしゃる通りだと思います。私たちは、党をつくって94年になりますが、つねに相手方の攻撃にさらされます。苦しい状況が続くこともある。最近でも、90年代の「自民対非自民」のキャンペーン、2000年代の「自民か民主か」の「二大政党論」のキャンペーンなど、難しい情勢に直面し、それらと苦闘してきました。そういうなかで、「正しいことを言っているのだから必ず分かってもらえる」と確信をもって、それで頑張ってきたという面もあります。ただ、さらに広い国民に支持される党になるためには、いわれるような努力がもっと必要です。伝える相手へのリスペクトをもって、もっと謙虚にという努力が必要だと思います。
「シールズ」のみなさんや、「ママの会」のみなさんと私も、いろいろと交流してきて、彼ら、彼女らが、いかに普通の人々が抵抗なく参加できるような運動にしていくか、普通の人々の気持ちにスッと響くような訴えになるかということについて、徹底的に同じ目線で語りかけていく努力をしていることがよく分かります。主権者が隣の主権者に伝える、そういうやり方です。私たち共産党の今後の姿も、国民と同じ目線ですすみ、国民とフラットな関係で手を携えて社会を変えていくためには、いろいろな自己改革や自己脱皮の努力がいると思っています。
参議院選挙に向けて
志位 今年は、去年起こった国民の新しい歴史的歩みを、日本の政治を変えるというところに必ず実らせたい。そういう年にしたいと決意をしています。
まずは参議院選挙で、野党共闘を実現し、自公とその補完勢力を少数派に転落させる。憲法を破った勢力は主権者である国民に罰せられ、退場させられるということを、日本の民主主義の当たり前のルールになるような結果を出したい。
同時に、そのなかで日本共産党が躍進することに全力をあげたい。「戦争法廃止の国民連合政府」を実現し、日本の政治に立憲主義・民主主義を取り戻していく、そのために日本共産党を躍進させてほしいという訴えを大いにやっていきたいと思います。
いま一つ、参議院選挙では、安倍政権のあらゆる分野での暴走政治にストップをかけ、政治の転換をはかる。戦争法のほかにも、沖縄、原発、TPP、消費税など、たくさんの焦眉の課題があります。これらの問題で、「暴走を止め、転換をはかる」という願いを日本共産党へと訴えて、躍進を果たしたい。
野党共闘によって自公を少数派に追い込み、そのなかで日本共産党が躍進するという結果をつくるために、奮闘していきたいと決意しています。
中野 これまで私自身、政治を研究する者として日本政治が右傾化してきた過程を、本などにも書いてきたのですけれども、さきほども志位さんがおっしゃったように自民対民主の対立だというような形で、共産党の票が流れていったりということで、むしろ全体としては、自民党を筆頭とした、あるいはその周りを回る衛星政党のような右翼政党が、議席を伸ばすということが続いていて、自民党に対抗する野党は全体として縮小傾向にあって、政治の右傾化が徐々に、しかし、とめどなく続いていくという状況を生み出してきたんだと思うんですね。
ところが、今回の市民社会の動きの中では、私自身は右傾化を止める、その希望が明らかに見えてきたと感じていて、ここから、そのリベラル左派勢力の反転攻勢が始まる、始まっていると考えています。それをいかに政党政治のところに還元していくのか。これはもちろん、一気にすべてが回復できる問題ではなくて、政治の最低限のバランスを取り戻すにはまだまだ時間がかかっていくんだと思うんですけれど、その大きな第一歩が参議院選挙で実現可能になると。そのためには、やはり、「個人の尊厳」を中核にすえて野党共闘というものが、大きな意味のある対抗勢力としてより多くの有権者に伝わって、投票率が上がって、若者も投票所に足を運ぶということだと思います。
われわれ、運動を展開してきた側からしてみても、市民社会から、そういった野党の動きを積極的に後押しをして、良い1年となるよう、日本の政治が、立憲主義を回復し、民主主義を育てていく、今年がその転換期になったということが、後世から見て分かるような形にできたらと思っています。
志位 本当に、去年が、国民が新しい歩みを始めた年であったとすれば、今年は、日本の政治の文字通りの歴史的転換点となったという年にしたいですね。
いま言われた「右傾化」という問題についていいますと、たしかに安倍政権は「右傾化」している、「右傾化」というより「極右化」しています。極右政党ですよ、今では。政治の表層というか、上部構造の中でも永田町だけを見たら「右傾化」かもしれない。もっとも、その永田町でも最近、国会前では多くの国民が怒ってデモをやっていますから、単純に永田町とはいえないかもしれません(笑い)。「右傾化」しているのは、「永田町の塀の中」だけということになりますか。(笑い)
しかし、土台のところでは、自民党政治がいよいよ行き詰まっている。戦後71年、自民党政治は、外交をみても、経済をみても、統治能力を失っていると思います。「安倍外交」ということでやっていることは、原発を輸出して、武器を輸出して、「積極的平和外交」なる美辞麗句で自衛隊の海外派兵の道筋をつけようとしているだけで、外交と呼べるものは一切ないですね。経済の方も本当に行き詰まってしまっていて、日本経済が長期にわたって停滞・衰退しているときに、国民の暮らしをどうするのか、経済をどう立て直すのか。その方途を失っています。統治能力を失っていると思います。
ですから、政治の表層――「永田町の塀の中」では、逆流が支配しているように見えても、自民党政治は土台部分ではもう腐りきっている。そして、国民運動の大反撃、市民社会の大反撃が開始された。日本の政治は、大きな変革の時代に入りつつあると思います。今年を、そういう変革に大きく一歩踏み出したといえる年にしたいと思っています。
中野 いまうかがって、まさに私も同感です。さきほどのたとえでいうと、焼け野原に、その根腐れ起こした木がかろうじて一本残っているように見えるけれども、実はもう新緑が芽吹いていて、それが新しい木に育っていく、そういう年にしたいですね。
志位 それはすてきな表現ですね(笑い)。私も、そう思います。今日は、ありがとうございました。
中野 ありがとうございました。
日本共産党の「戦争法(安保法制)廃止の国民連合政府」提案
1、戦争法(安保法制)廃止、安倍政権打倒のたたかいをさらに発展させよう
2、戦争法廃止で一致する政党・団体・個人が共同して国民連合政府をつくろう
3、「戦争法廃止の国民連合政府」で一致する野党が、国政選挙で選挙協力を行おう
「敷布団」と「掛け布団」 中野晃一・上智大学教授は、戦争法反対の運動の担い手について、長年、平和運動や護憲活動をしてきた人々を「敷布団」に、「学者の会」やシールズやママの会などの活動を「掛け布団」にそれぞれ例えてきました。10月20日のインターネット番組「とことん共産党」では、「夏は、あんまり掛け布団がいらず、敷布団だけあれば寝られるんですが、冬になると、あったかい掛け布団がでてくるとうれしい。寒さって下からくるので、敷布団がしっかりあって断熱してくれるから、上の羽毛布団があれば、あったかく感じる」と解説しました。