2015年12月24日(木)
きょうの潮流
「きよしこの夜」。だれもが知っているクリスマスの賛美歌は、ヨゼフ・モールが1816年に作詞しました。その直筆譜が、20年前にみつかりました▼直筆譜には、広く普及しているような全3節ではなく、6節ありました。しかも省かれていた中に、重い内容がありました。宗教学者の故川端純四郎さんが『さんびかものがたりII』(2009年)で秘話を紹介しています▼原詩はドイツ語です。「静かな夜 聖なる夜」で始まるのは、省略された第4節も同じ。「私たちすべてを兄弟として恵み深く/イエスは世界の民を抱きしめる」。ベートーベンの第9の「歓喜の歌」と重なります▼モールは、数百年続いたザルツブルク大司教侯国の貧しい家庭に生まれました。その後、ナポレオン戦争で国は崩壊。十数年間にフランス、バイエルン、トスカーナ、バイエルンとめまぐるしく支配者を代え、1816年にオーストリアに属することに。教会の助祭として父の故郷、アルプス山中の町にいたときに、待ち望んだ平和がやってきました▼第5節は「主は怒りをお捨てになって…全世界にいたわりを約束された」。川端さんは「この年でなければ生まれることのない詩。重要なことは、ここに諸民族の和解と平和が歌われたことです」と書いています▼第1次大戦で、塹壕(ざんごう)をはさんだ独と仏英の兵士が、クリスマスに戦闘をやめ、互いに歌ったというエピソードがあります。平和の願いをこめた歌だと、どこか感じるものがあったからでしょうか。