2015年12月19日(土)
主張
総合支援法見直し
障害者の切実な願いに応えよ
厚生労働省が障害者総合支援法の改定へ向けた議論をすすめています。厚労相の諮問機関・社会保障審議会障害者部会は今週初めに法改定のたたき台となる報告書をまとめましたが、障害者が切実に求める負担軽減などはまともに反映されず、むしろ負担増を強める方向を盛り込んでいます。厚労省は、来年の通常国会に改定法案の提出をめざすとしています。障害者・家族の生活や権利を脅かす見直しを行うことは許されません。
自己負担拡大と給付縮小
障害者総合支援法は、障害が重い人ほど負担が重くなる「応益負担」の仕組みを導入した障害者自立支援法に代わり、2013年に施行されました。自立支援法廃止を求める障害者らの運動の全国的な広がりが背景です。しかし、自立支援法をベースにして法律の名前を変えただけの「改定」にとどまったため、総合支援法には障害者からきびしい批判が寄せられ、深刻な問題や矛盾が次々と浮き彫りになっています。
その一つが、65歳を迎えた障害者が半強制的に介護保険に移行させられ、それまで無料だった利用料が有料になったり、サービスの打ち切り・縮小が生じたりする問題です。総合支援法7条の「介護保険優先原則」が根拠です。「65歳すぎても障害福祉サービスを利用して暮らしたい」と7条廃止を求める違憲訴訟も起きています。
ところが報告書(14日)は「介護保険優先原則を維持することは一定の合理性がある」として障害者の願いに背を向けています。
さらに報告書では、公費支出抑制のためボランティア等の活用の検討、グループホーム利用者を重度障害者に限定する方向性も示しています。現在無料の低所得世帯の障害福祉サービス利用料について、「他制度とのバランスや公平性」を踏まえるなど負担拡大をにじませていることも重大です。
国は10年に、自立支援法の違憲訴訟をおこした原告団・弁護団と、同法廃止・新法制定を盛り込んだ「基本合意」を交わして和解し、「応益負担」廃止などを約束したはずです。その後も障害者が当事者として加わった政府の審議会が、新法制定へ向けて「基本合意」や障害者権利条約を土台にした「骨格提言」をまとめました。
政権が代わろうとも、政府と障害者らが正式に合意した内容の重みは変わるものではありません。
今回の法改定も、総合支援法制定に多くの障害者が反対するなか、政府が法律に盛り込まざるを得なかった「3年をめどに見直す」とした付則にもとづくものです。
「基本合意」や「骨格提言」の原点に立ち返った見直しこそ必要です。それは昨年、障害者権利条約を批准し、障害者施策の拡充を約束した日本政府の責任です。
尊厳を守る施策充実こそ
社会保障削減を狙った05年成立の自立支援法は、障害者・家族に深刻な打撃を与えました。「基本合意」は、障害者の人間としての尊厳を深く傷つけたことに心からの反省の意を表明しています。
安倍晋三政権の姿勢はあまりに無反省です。社会保障費を機械的に削減する路線を復活させ、障害者福祉をはじめ医療・介護・年金などの切り捨てを加速しています。暮らし破壊の暴走を許さず、社会保障拡充へ向けた国民共同の運動を広げることが急がれます。