2015年12月12日(土)
主張
マイナンバー不安
利用開始の前提が大揺れだ
日本に住民票をもつ人全員に12桁の番号を割り振り、国がさまざまな個人情報を管理する「マイナンバー」をめぐる混乱が収まりません。1月利用開始をうたっているのに、番号を通知するカードの郵送が大幅に遅れたり、カードそのものが印刷されていない地域が発覚したり、国民の不信は募るばかりです。情報漏えいや国による住民監視の強化など制度の仕組み自体についての懸念もぬぐえません。安倍晋三政権はあくまでも1月からの開始をめざしています。しかし、開始の前提が大きく揺らいでいることは明らかです。
無理重ねた計画混乱招く
マイナンバーは、赤ちゃんからお年寄り、外国人も含め日本で住民登録している約1億2000万人に番号を付け、当面は1月から税申告や社会保障の手続きなどに利用させようという仕組みです。
10月半ば以降、市区町村から番号を知らせる「通知カード」が簡易書留で約5600万世帯に向け郵送されていますが、その“出発”から混乱の連続です。政府は11月に配達完了としていたのに、12月半ば過ぎでも完了しません。受取人不在で手渡せないケースも続発し自治体に返送された通知カードは500万通にのぼり、まだ増えることは確実です。通知カードが大量に送り返されてきた自治体は対応に頭を悩ませています。
そもそも1カ月余りで5600万世帯に簡易書留を届ける計画に無理がありました。日本の郵便の歴史で、これほど大量の簡易書留を短期間で送った経験はありません。印刷や郵便局への搬入の遅れも重なり、混乱に拍車をかけています。そのしわ寄せを受け過重な負担を強いられる現場の職員は、たまったものではありません。
受取人不在が数百万単位で発生することも当初から指摘されていたことです。住民票を変えずに特別養護老人ホームで生活する高齢者、家庭内暴力から避難している人などへの手だても本人任せです。認知症などでマイナンバーをしっかり管理できない人への対応の仕方も不明確で、医療・介護・福祉の現場は苦悩を深めています。
一人ひとりの生活状況を考慮せず、大切な管理が必要な番号通知を一律に送りつける―。政府の乱暴なやり方が問われます。
住民全員へ番号通知が終わるめどもないのに、安倍政権は1月からマイナンバーや顔写真を記載した「個人番号カード」を1000万人に交付する計画です。身分証明以外にほとんど使い道がなく、むしろ紛失すると個人情報が漏れるリスクがきわめて高いカードです。申請は任意で、強制ではありません。そんなカードの危険性はほとんど触れず普及ばかりに力を入れる政府の姿勢は、国民のプライバシーを危うくするものです。
1月開始の延期・見直しを
政府はマイナンバーの民間分野への利用拡大も狙います。しかし、ひとつの個人番号を官民共通で広く使っている国はアメリカなど少数です。アメリカでは個人情報漏えいなどが大問題になっているのが実態です。そんな危険な道に踏み込んではなりません。
マイナンバー差し止め裁判が提訴されるなど、実際に番号を手にしてからも国民の不安は広がるばかりです。1月実施を延期して制度の危険性を検証・再点検し、廃止へ向け見直すことが必要です。