2015年12月10日(木)
あかつき、金星回る軌道へ
日本の探査機 初の成功
宇宙航空研究開発機構(JAXA)で金星探査機「あかつき」のプロジェクトマネジャーを務める中村正人教授は、9日、観測責任者の今村剛准教授、軌道計算を担当した廣瀬史子主任研究員とともに、JAXA宇宙科学研究所(相模原市)で記者会見し、「ついにわれわれの夢は実現した」と語り、金星周回軌道への投入が成功したことを明らかにしました。日本の探査機が惑星周回軌道へ投入されたのは初めてです。
あかつきは、“金星版の気象衛星”で、2010年5月に打ち上げられました。同年12月に周回軌道投入を試みましたが、主エンジンの故障で失敗。探査チームは、再挑戦に向けた複数のシナリオを検討して軌道修正を行ってきました。
再挑戦の機会が訪れた今月7日午前、姿勢制御用エンジン4基を約20分間噴射して減速。2日間かけてデータを解析した結果、現在、金星から最も近いところで440キロ、最も遠いところで約44万キロのだ円軌道を約13日かけて回っていることが確認されました。
あかつきが撮影したばかりの金星の画像を公開。廣瀬主任研究員は「金星がど真ん中に写っているのを見て私の計算が間違っていないことが実感できた」。今村准教授は「うれしくて管制室でまわりの人たちとハイタッチした」と喜びを表しました。
解説
地球と双子の金星 謎解明へ
「あかつき」軌道に
最初の金星周回軌道投入失敗から5年。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の金星探査チームの努力がようやく実り、探査機「あかつき」は金星の周りを回り始めました。当初の計画よりも金星から離れた軌道を回ることになりましたが、いよいよ金星の素顔を明らかにする観測が始まります。
あかつきには、赤外線や紫外線など5種類のカメラが搭載されています。これらのカメラを使って、刻々と変化する雲や物質の動き、火山活動、雷現象などを探ります。また、あかつきから発信する電波信号が金星大気を通過して地球に届くのを観測し、大気の層構造を調べます。
とくに注目されているのが、金星最大の謎と言われる「超回転(スーパーローテーション)」と呼ばれる現象の解明です。金星の自転速度は赤道上で秒速1・6メートル(人が歩く程度)なのに、上空では秒速100メートル(新幹線より速い)の風が吹いています。この不思議な風の謎が解ければ、地球の大気循環や太陽系外惑星での生命存在の可能性についても理解が深まると期待されています。
金星は、大気の量が地球の100倍もあり、その95%以上を二酸化炭素が占めているため、地表面は90気圧で460度の灼熱(しゃくねつ)地獄です。空は硫酸の雲に覆われています。誕生当時は地球と双子の惑星だったと考えられている金星の環境が地球とまったく違ってしまったのはなぜか―。その謎解きが託されたあかつきの本番はこれからです。
(間宮利夫)