2015年11月18日(水)
きょうの潮流
人にとって住まいは“生活の器”といわれてきました。組み立てや装飾に家の本質があるのではなく、眠ったり、食事をしたり、くつろいだり。日々の暮らしの基盤となるものだと▼安定した住まいの確保は人生の軌道を組み立てるうえで欠かせません。しかし、いま日本では住む場所を得られず、行き場のない人たちが増えています。ネットカフェやカプセルホテル、ファストフード店。居住の不安定さは多様な「かたち」を映し出します▼11人が亡くなった川崎の簡易宿泊所火災から半年がたちました。焼け出された人のその後や、いまも周りの簡宿で暮らす人たちの生活がマスメディアにも取り上げられています。そこからは深刻な住まいの貧困が見えてきます▼「あの時、自分も死ねたらよかったかも。1人で生きる元気もない」。ある新聞で紹介された81歳の男性は火元となった宿泊所に住んでいましたが、近くの簡宿に転居。持ち物を火災で失い、顔見知りと離れ、気力のない毎日を送っています▼簡宿には、失業し生活保護を受ける高齢者が多く身を寄せます。転居を望んでも公的な住宅や福祉施設が全く足りない―。本紙の「社会リポート」が報じています。日本の貧弱な住宅政策が貧困からの脱出を阻んでいると▼「一億総活躍社会」などと打ち上げながら、生活の根っこを次々と掘り崩し、人びとを浮世にさまよわせる逆立ちした政治。生き方を描けず、老いても安らげる場所さえない。そんな社会を土台から立て直さなければ。