2015年11月17日(火)
きょうの潮流
「競走馬に与えられるアヘンと麻薬の混合物」。今から120年以上前、ドーピングの語源である「ドープ」が英語の辞書に初めて載ったときの説明です▼ドープとは昔、南アフリカの先住民族が祭礼や狩猟の際に飲んだ強い酒だったといわれています。辞書に表れた当時、競走馬に薬を投与するケースが相次いだことから薬物検査を導入。これがドーピング検査の始まりでした▼スポーツ界のそれが広く知られたのは、1988年のソウル五輪陸上男子100メートル決勝を制したカナダのベン・ジョンソンでしょう。レース後に筋肉増強剤が検出され、金メダルは剥奪。世界記録も抹消されました▼衝撃の一方で世界を驚がくさせたのが東ドイツの圧倒的な強さでした。100をこえたメダル数はアメリカを抑えソ連に次ぐ2位。人口1700万の国の選手育成が注目されましたが、ベルリンの壁崩壊後に明るみに出たのは国家ぐるみのドーピングでした▼幼少時に発掘した有望選手に毎日飲ませていた錠剤。冷戦下で国家体制の優位性を示すためにスポーツが利用され、「薬なしに勝利なし」の合言葉も。結果、多くの選手が副作用に苦しめられています▼いままたロシア陸上界のドーピング問題で国の関与が疑われています。この国もソ連時代からスポーツを国威発揚の手段とし、不正が続いてきました。勝利至上や商業主義と相まって、まん延するドーピング。人間をサイボーグ化する薬物汚染を根絶しないかぎり、スポーツに未来はありません。