2015年11月13日(金)
大阪 市立住吉市民病院廃止問題
「府立病院と役割違う」 「出産・子育てに不安」
“ムダの象徴”論に住民反撃
橋下徹大阪市長率いる大阪維新の会が主張する「二重行政」の象徴として、いち早く廃止が決まった大阪市立住吉市民病院(住之江区)。地域の小児・周産期医療の中核を担う同病院がなくなれば「若い世代の流出を招き、地域が衰退する」という地元住民の懸念に政治がどう応えるか。大阪府知事・大阪市長ダブル選(22日投票)で問われています。 (前田美咲)
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選挙勝利で存続へ道開こう
「莫大(ばくだい)な公金を投入して公立病院を維持するのは、行政のあり方として間違っている」―。橋下市長は1月、市議会で、こう発言しました。
住吉市民病院が診療するのは小児・周産期(出産前後の妊産婦への医療)科。病院経営で「不採算部門」といわれ、民間病院の撤退が相次ぐ分野です。市民病院が閉まれば、分娩(ぶんべん)できる施設は住之江区に一つ、隣の西成区はゼロに。入院できる小児・周産期の病院もゼロになります。
「安心して産み、育てられる街づくりじゃない」。住之江区に住む女性(37)は橋下市長の方針に疑問を投げかけます。15歳の娘と6歳の息子を市民病院で出産。2人は体調を崩しやすく、それぞれ4〜5回、市民病院に入院してきました。
「設備の整う公立病院が近くにあることで心身の負担が軽くなる。今後この地域で出産・子育てする人にとっても、なくてはならない病院だ」と語ります。
市民病院廃止にかかわる市の計画は、▽同病院を2キロ先の府立急性期・総合医療センターに統廃合▽府立病院敷地内に「府市共同母子医療センター(仮称)」を新設▽市民病院跡地に民間病院を誘致―するものです。
至近距離に公立病院が並んでいるのは「不合理」であり、高度医療を行う母子医療センターを新設して地域の医療レベルが上がる方が住民も喜ぶというのが橋下市長の理屈です。
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反対署名7万人
住之江区医師会の松嶋三夫会長は「市立は2次救急(感染症などの急性疾患に対応)、府立は3次救急(重症者に対応)を担う別々の役割がある」と指摘。「小児科の救急患者は、発熱・脱水・下痢・嘔吐(おうと)など感染症が主。高度医療ではなく、ベッド数の確保が第一だ」と話します。
地元住民は廃止に強く反対。現地での存続を求める7万人分超の署名に、橋下市長は民間病院の誘致を表明しました。市議会は、市民病院廃止を決めた際、付帯決議で、跡地に来る民間病院に市民病院並みの医療水準を求めました。
その民間病院誘致が難航しています。公募が2回失敗。市が個別交渉で住之江区の南港病院を選定したものの、地元6行政区の医師会は「市民病院並みの医療を存続できない」と反対しています。
松嶋会長は計画について、▽南港病院に産科・小児科の臨床経験がなく、小児救急を行わない▽小児科ベッドが22床減る▽市が医療内容を保証するのが10年だけ―などの点を問題視。「小児・周産期医療が不足する、この市南部医療圏で、長期的に継続できる公立病院が役割を果たすことが地域の発展にとって重要だ」と話します。
一連の計画の実行には、市南部医療協議会・府医療審議会への意見聴取と、府知事による厚労省への申請、同省の同意が必要です。
10月、市協議会と府審議会部会は反対を決定。厚労省の担当者は、そうした地元の了解がない中で「計画に同意した前例はない」と述べます。
事実知らせよう
柳本あきら市長候補は、政策に「民間病院が誘致されるまで閉院時期の延長」「大阪市南部保健医療圏において不足する周産期医療を充実」と明記。くりはら貴子知事候補は、拙速に結論を出すことに否定的な態度です。
公立としての市民病院存続を求める「住吉市民病院を充実させる市民の会」の松本安弘事務局長は「ダブル選で橋下『維新』政治に終止符を打てば存続に道が開ける。多くの人に事実を知らせよう」と呼びかけています。