2015年11月7日(土)
きょうの潮流
この地に米軍基地などつくらせぬと座り込む沖縄のおじい、おばあを力ずくで引っこ抜く機動隊員。戦後70年の平和の歩みを逆戻りさせてなるものかと国会を包み込むあまたの市民―▼今年もまた時代を切り取る数々の写真に心を打たれました。「記録し次の世代につなげるのが私の使命」。本紙日曜版にも登場した101歳の写真家、笹本恒子さんは自身の役割をそう語っています▼日本初の女性報道写真家として60年安保のときもデモの現場に通っていたという笹本さん。今も足が元気だったら官邸前に行っていると。その安保闘争を記録した写真家として世界に名をはせたのが、濱谷(はまや)浩です▼国会前や街頭の怒とうのデモ、警官隊との衝突で犠牲になった樺(かんば)美智子さんが運ばれていく写真も。「私は戦前戦中戦後を生きてきた日本人の一人として、この危機について考慮し、この問題にカメラで対決することにした」。生々しい現場に身を置くことで「再び時代の渦に巻き込まれない姿勢」を示しました▼濱谷には、かつて国家宣伝のために自分の写真が利用されたことにたいする憤りと反省がありました。それが人間を時代の環境の中でとらえるという、その後の方向を▼風俗から雪国や「裏日本」の生活、戦後の「怒りと悲しみの記録」。いま、濱谷の生誕100年を記念した回顧展が東京・世田谷美術館で開かれています。そこからは、人間が人間を理解するために時代と格闘してきた一人の表現者のメッセージが静かに伝わってきます。