2015年10月31日(土)
主張
「1億総活躍社会」
国民をどこに追い立てるのか
安倍晋三改造政権が目玉政策と位置づける「1億総活躍社会」の具体化のために設置された「国民会議」の初会合が開かれました。「1億総活躍」については発表された直後から「国民に『活躍』を押し付けるのか」などの違和感や疑問が国民から相次ぎました。初会合でも安倍首相(同会議議長)が口にしたのは「みんなが活躍できる社会をつくるため」などの抽象的な発言ばかりで、なにをめざすのか、国民にはさっぱり伝わりません。「総活躍」などという勇ましい掛け声で、国民をどこに追い立てようというのでしょうか。
犠牲強いる政策に拍車
「1億総活躍社会」は、9月末に自民党総裁に再選された安倍首相が記者会見で突然打ち出したものです。「希望を生み出す強い経済」「夢をつむぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を柱とする「新3本の矢」を放って、「国内総生産(GDP)600兆円」「希望出生率1・8」「介護離職ゼロ」を実現するなどとしています。
安倍首相が、このような政策を掲げたのは「経済優先」姿勢を印象付け、戦争法強行にたいする国民の怒りをかわす狙いからです。
政権発足以来、売り物にしてきた経済政策「アベノミクス」の行き詰まりから目先をそらす思惑もあることは明らかです。
そんな打算から出発した「絵空事」だけに、具体的道筋や財源などの裏付けはまともに示されていません。国民会議の初会合に政府が提出した資料でも、具体的な中身は国民に犠牲を強いている「アベノミクス」の焼き直しです。
安倍首相は初会合で、「少子高齢化という構造的課題」に正面から取り組むといいました。しかし、子どもを産み育てることを困難にし、高齢者介護を家族に押し付ける、ゆがんだ「構造」をつくったのは、安倍政権をはじめとする自民党中心の政権ではなかったのか。
現在日本の合計特殊出生率1・42が各国と比べ低水準なのは、日本の出産・子育て環境が世界と比べ極めて深刻な状況だからです。大企業優先政治のもとで長時間過密労働を野放しにした結果、男性も女性も子育てと両立する仕事の基盤が掘り崩されました。「経済的理由で子どもや家庭がもてない」という若者は増加するばかりです。
介護保険制度ができて15年たつのに国民の介護ニーズに追いついていません。負担増がサービス利用を手控える事態をもたらしています。介護報酬切り下げが介護施設経営を苦しめ、介護労働者の働く環境改善を妨げています。
政治の根本的転換こそ必要なのに、安倍政権にその意思はありません。国民会議メンバーに雇用破壊・社会保障破壊の政策を要求してきた財界代表が加わったことは、「1億総活躍」が国民の願いに反する経済政策の継続・強化に他ならないことを象徴しています。
「進め一億」はまっぴら
初会合で首相は人口減の深刻さを表現するのに「国力衰退」という言葉を使いました。“たくさん産んで国家に貢献”と発言し批判を浴びた菅義偉官房長官とどこが違うのか。「1億総活躍」の言葉に国民が、戦前戦中の日本が「進め一億 火の玉だ」の掛け声で破滅に突き進んだ歴史を思い起こし、不安を感じるのは当然です。国民を国家のために動員する政治と社会を復活させてはなりません。